第5話
僕は本当は知っていたんだ。
ユメは僕の子ではない。
アカリは誘拐犯に殺された妹で、もうこの世にいない。
だから自分に嘘をついて自分を騙した。
ユメは僕とアカリの子供だ。
アカリは僕の恋人で、家族と一緒に暮らしている。
そのように振る舞うことにした。
アカリを妹ではないかのような設定にしたのは、どうやっても誘拐拉致監禁事件と妹の死は結びついていて、そうすると僕が見ているアカリの存在が揺らいでしまうからだ。
ユメを僕とアカリの子供であるような設定にした理由は言うまでもない。
存在しない人物を存在しているかのように扱って、存在する事実を別の事実に置き換えた。
僕はそんな矛盾だらけで欠点だらけの改変を少しでも続けようとした。
「まあそんなの上手くいくわけがないよね」
「そうかなあ」
「元々無理があったんだよ。だから少しのきっかけですぐ不安定になる」
「……うん」
夢とも現実ともつかない世界で、僕はアカリと話をする。
正確にはアカリではないけれど、僕の中ではアカリだということになっている。
せっかくだから最後に言えなかったことを伝えておく。
「アカリが最後に言ってたことさ」
「うん」
「僕も同じことを思ったんだ」
「うん、知ってるよ」
「そっか。それなら良かった」
母がいて、父がいて、ユメがいて、アカリがいる。
みんなで笑ってられるのなら、きっと最高に幸せだ。
「これからどうするの」
「それはもう決めてるよ」
「そっかそっか」
なにを望むかは決めている。
長いまどろみから覚めて、僕はまた新しい夢を見る。
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