第3話 サンタさん

サンタさんが手をの伸ばしている。

その手はなにかをつかもうとしているの、

それは何、

私たちの笑顔、

ありがとうの言葉。

確かにサンタさんはそういうものを欲しいいと思って、私たちを見つめていた。

でも私たちの誰もがその言葉を言うことはなかった。思えば子供は残酷だ、相手の事を思いやると言う事が出来ない、とてつもない努力をしているのに、その結果が意に返さなければ、簡単にそっぽを向く。

やはりあれはサンタさんだ。

怒っているの。


あの時私たちは、サンタさんを本当のサンタさんとして疑うことをしなかった。

ある冬、十二月に入ったばかりの頃、私たちはサンタさんを取り囲んだ。さぞかしサンタさんは驚いただろう、小学校に入るか入らないくらいの子供たちに取り囲まれたのだから、そしてみんなで声を合わせて、

「サンタさん、お願いします」と言って、小さなメモを差し出した。そこには

ミニカーが欲しいです。とか、縫いぐるみとか、綺麗な鉛筆とノートとか、それぞれ欲しいものが書かれていた。みんなサンタさんと疑っていなかったから、どうせ近くにいるなら直接お願いしようということになった。私はパンダさんの書かれた大事な大事な便箋に覚えたての字で


良い子にするから、お人形さんをください


と書いて渡した。サンタさんは本当に驚いた顔をしていたけれど、次の瞬間優しく微笑んだ。その顔を見て私たちはああこのおじさんはやっぱりサンタさんなんだと思った。



クリスマスが近づいたある日、サンタさんは私たちにプレゼントをくれた。

一体どこから調達したのかわからなかったけれど、みんな希望どうりの物ではあった。

でもどこか壊れていたり、汚れたりと、新品ではなかった。みんなガッカリしてその顔には露骨に落胆の色が映った。

「こんなのいらない」と言って、受け取らない子もいた。今にして思えばホームレスのおじさんがプレゼントなんか買えるわけもなく、きっとどこかのゴミ捨て場から拾って来た物だろうというのは想像ができた。子供は正直だ。

サンタさんは私たちよりも、もっと寂しそうな顔をしていた。私は「ありがとう」とは言えなかった。

だって、少し汚れたお人形は全然嬉しくなかったから。

他の子はどう思ったかわからないけど、私はサンタさんの寂しそうな顔がずっと目に焼き付いった。


それから数日して記録的な寒さが続く時があった。

そんなある朝、サンタさんが死んでいるのが発見された。

寒さによる凍死だった。




やっぱり私のことを許してはくれていないの。

サンタさんはずっと昔からこの公園で暮らしていた。こんな住宅地の中の児童公園にホームレスのおじさんが住み続けることなどできるわけない、だって周りの大人が出て行くように言うはずだから、でもずっといて遊ぶ私たちを見つめていた。そんな人がいれば子供は怖がるのに私たちは怖いと思ったことは一度もなかった。きっとその目にはいつだって優しい光が満ちていていた。

だから私たちはまるで近所のおじいちゃんに見守られているような安心感があった。なぜそうなったのかは色々な噂はあった。誘拐された子供がサンタさんの目撃証言で助けだされたとか。怪我をした子供をいち早く手当をして大事にいたらなかったとか。たとえ本当ではなかったとしても、それに近いことはあったんだとおもう。

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