第39話
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「あ、師匠、ちょっと待っててもらっていいですか?」
「……いいけど。どうしたの?」
「少し、コピーしたい紙があるんです」
そう告げて、僕は、車道を挟んだ先にあるコンビニエンスストアに向けて走り出した。ちょうど、横断歩道の信号が青になっている。そこを渡り、コンビニエンスストアへ。中に入って、雑誌コーナーの横にあるコピー機の前に立つ。鞄から紙を取り出し、十枚コピーする。その後、急いでコンビニエンスストアを出て、走って師匠の所に戻った。
「お待たせしました」
「お疲れ様。……何コピーしたの?」
不思議そうな顔で僕に尋ねる師匠。
そんな師匠に、僕は、コピーした紙の一枚を手渡した。
「……将棋盤?」
駒の置かれていない将棋盤が書かれた紙を見て、師匠は首を傾げた。
「はい。そろそろ文化祭なので。先輩が、詰将棋を書いて展示しようって提案してくれたんです」
僕の高校では、一週間後に文化祭が開かれる。将棋部は、毎年教室を一つ貸し切って、将棋体験コーナーを開くのだと聞かされた。ただ、さすがにそれだけだと味気がないので、今回、詰将棋を紙に書いて展示することになったのだ。
ちなみに、去年、将棋体験コーナーに何人の人が来てくれたのかを先輩に聞いてみたところ、先輩は、このように答えた。
「……閑古鳥って知ってる~?」
僕は、すべてを察したのだった。
「文化祭ね。一応、私のクラスではお化け屋敷をすることになってるけど……」
「いいですね! 師匠のお化け役、見てみたいです」
「……あまり、見られたくないね」
そんな会話をしながら、僕たちは再び駅に向かって歩き出す。いつものように、たわいもない会話をしながら。
「そういえば、君の自由時間はいつになるのかな?」
「僕の自由時間は、……クラスの出し物の受付が終わってから将棋部の方に行って……確か、十一時からだったと思います。ただ、十三時にはまたクラスの方に戻らないといけないですけどね」
高校生になって初めての文化祭。本当は、もう少し遊びたいものだが、いろいろと役割をもらってしまったから仕方がない。
「そうなんだ……。ちなみに、私は十時半から少し暇になるんだけど……」
師匠が、チラリとこちらを見てそう告げた。部活動に入っていない人は、入っている人に比べて自由時間が多いのだ。
「あ、それなら、自由時間に一緒に回りませんか? 文化祭」
いろいろ見て回りたいとは思っていたのだが、一人で回るのは少し寂しいと感じていたのだ。師匠がいてくれればとても嬉しい。
「そ、そうだね。うん、そうしよう」
僕の言葉に、師匠はニコリと微笑むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます