第25話 お題「師匠」
アルファポリス、カクヨムで小説を投稿なさっている天野蒼空さんの企画に参加させていただきました。
天野蒼空さん
→アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/422973631
カクヨム https://kakuyomu.jp/users/soranoiro-777
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「明日からついに夏休みスタートですね!」
「……そうだね」
「しかも、明日は土曜日だから、師匠と将棋ができます!」
「……す、すごいテンションだね」
「当り前じゃないですか!」
明日はいよいよ高校生になって初めての夏休み。それに加え、師匠と将棋ができる日。テンションが上がらないわけがない。
ちなみに、師匠とは、夏休み期間、毎週土曜日に将棋をしようと約束している。本当は、毎日でも将棋をしたいところではあるが、そこまで僕の希望に付き合わせてしまうのは申し訳ない。師匠にもやりたいことはあるはずなのだから。
「君の師匠になって、もうすぐ三年……か」
不意に、師匠はそう呟いた。
「そういえば、そうですね」
思い返してみれば、師匠が僕の師匠となってもうすぐ三年になるのだ。長かったような、短かったような……。
「あのさ……一つ聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「私、これからも…………ごめん、やっぱり何でもない」
「……そうですか」
師匠が何を言おうとしたのかは分からなかった。だが、それを深くは聞かず、僕は、軽い返事をした。チラリと横目で見た師匠の顔は、どことなく不安そうだったから。
ゆっくりと歩みを進める僕たち。しばらくすると、駅が目の前に見えてきた。サラリーマン、老人、学生、カップル。何人もの人が駅の中に吸い込まれ、そして、吐き出されていく。今まで何度も見てきた、ずっとずっと変わらない光景。
「師匠」
「……ん?」
「僕、これからも師匠の弟子として頑張りますね!」
隣町に住んでいる師匠とは、駅に着くと別れることになってしまう。そうなる前に、今、心に浮かんだこれだけは言っておきたかった。きっと、明日になると、恥ずかしくて言えないだろうから。
僕の言葉に、目を丸くしてこちらを見る師匠。だが、すぐに、いつものような穏やかな表情を浮かべてこう言った。
「それなら、師匠として弟子の君に一つアドバイス。夏休みの宿題は七月中に終わらせること」
「…………」
「…………」
「…………カンベンシテクダサイ」
なんと鬼のようなことを言うのだろうか。夏休みの宿題なんて、八月に入ってからやるものだというのに。
僕は、ウゴゴと頭を抱える。
「……私、これからも、君の師匠でいていいんだね」
ボソリとそんな言葉を口にする師匠。
「……? 何当たり前のこと言ってるんですか?」
「……当たり前……そっか」
優しく微笑む師匠。そんな師匠の姿に、僕の心臓がほんの少しだけ鼓動を速めるのが分かった。
たぶん、僕たちは、これからも師匠と弟子であり続けるのだろう。ずっと……ずっと……。
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