第24.5話

 放課後。将棋部の部室。先輩と二人で将棋中。


「先輩、一つ質問したいんですが……」


「急にどうしたの~?」


「……先輩って、僕が帰った後、部室で何かしてるんですか?」


 部活動を終え、僕が帰るために片づけをしている時、先輩はいつも椅子に座って動こうとはしない。よくよく考えてみれば、僕は、先輩と一緒に部室を出て部室棟の外まで行くということをした覚えがないのだ。もしかしたら、先輩は、僕が帰った後、何かしているのかもしれない。具体的には、部活動に関わる雑用とか……。


「ん~? 特に何もしてないよ~」


「えっと……もし何か雑用とかやってるなら、僕も一緒に……」


「いやいや~。本当に、何もやってないよ~」


 いつものようなのほほんとした声を響かせながらフルフルと首を振る先輩。先輩の軽くウェーブのかかった髪がフワフワと揺れる。


「……それならいいんですけど」


 もし先輩が、部活動に関わる雑用をするために、僕が帰った後も部室に残っているのなら、それはとても申し訳ないことだ。だが、先輩の反応を見る限り、そういう理由で部室に残っているのではないらしい。


「……君は優しいね~。そんなこと心配するなんてさ~」


「それは……先輩に、雑用を押し付けるなんて、申し訳ないですし……」


「そっかそっか~」


 そう言って、先輩はニコリと微笑む。とても嬉しい笑みだった。


「まあ、一応言っておくとね~、ただぼんやり座ってるだけなんだよ~。それで、ふっと思い出した時に帰るの~」


「ぼんやり……ですか?」


「そうそう~」


 意外なような、そうでもないような。まあ、普段つかみどころのない先輩らしいといえば、先輩らしいのかもしれない。


「ぼんやり座ってるとね~、その日楽しかったことがたくさん頭の中に浮かんで来るんだ~。友達と笑って話したこととか~、授業で先生がしてくれた面白い話とか~。あとは~、…………二ヒヒ~」


「せ、先輩?」


 急に、先輩が妙な笑い方をした。顔がほころぶとはこういうことを言うのではないだろうか。


「あ~、ごめんね~。楽しいこと思い出しちゃってつい~」


「……よっぽど楽しかったんですね」


「そうなんだ~。すごく楽しかったよ~、昨日の後輩ちゃんとの将棋」


「……へ?」


 僕との……将棋? 


 昨日、僕たちは、時々たわいもない話をしながら将棋を指していただけだ。いつもと何ら変わらない。そのはずなのに……。


「君との将棋は、いつもいつも楽しいんだよね~。…………二ヒヒ~」


 今日、先輩は、時々思い出したように顔をほころばせていた。その姿は、心から僕との将棋を楽しんでいるように思えた。


 僕、普通に指してるだけなんだけどなあ……。

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