第4話
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「君は、普段、あの先輩とどんな話をするのかな?」
学校から出てすぐの所で、師匠は僕にそう質問した。
「将棋部の先輩とですか?」
「そう」
こくりと頷く師匠。
そういえば、以前、先輩から、師匠と最近面白いことはあったかを聞かれたっけ。そして、今日は、師匠から、先輩とどんな話をするかを聞かれている。女性って、こういった話題が好きなのだろうか。
「そうですねー……いろんなことを話しますけど、やっぱり将棋の話が多いですかね。この時はこう指す、みたいな」
基本、のほほんとしている先輩だが、将棋に関する鋭さは本物だ。僕以上に、大局観というものが優れている。だからこそ、僕は、自宅でネット将棋をしていて難解な局面にぶつかった時、その局面を写真に撮り、翌日の部活動で先輩からアドバイスをもらうようにしている。
「将棋の話……ね。まあ、将棋部だから、当然なのかな」
僕の答えに、師匠は小さく頷いた。
話が終わり、僕たちの間に沈黙が流れる。でも、嫌な沈黙ではなかった。
特別何かを話すこともなく、ゆっくりと駅に向かう僕たち。お互いが、お互いの歩調に合わせ、歩き続ける。僕たちの周りの景色が、ゆっくりと僕たちに近づき、そして、後ろに流れていく。
ふと、目の前に、大急ぎで走る中学生くらいの子が見えた。その子は、僕たちの斜め前にある建物の中に入っていった。確か、ここは塾だ。中学生の時、体験ということで数度訪れたことがある。
「あ、そういえば、先輩とは、勉強の話もよくしますね」
「勉強?」
突然の言葉に首を傾げる師匠。
「はい。僕、中学の頃から国語が大の苦手で……。現代文なら何とかなるんですが、古典はちょっと……。だから、授業で出た問題とか、先輩に教えてもらってるんですよ。先輩、教えるの凄く上手いですしね」
今日も、対局を始める前、先輩に古典を教えてもらった。心の中で、先輩に手を合わせる。
ありがたや、ありがたや。
「勉強……」
そう呟き、師匠は何かを考えている様子だった。次に師匠が口を開いたのは、数十秒後のことだった。
「ねえ、今、何か分からない問題とかはないかな? 私でよければ、力になるよ」
「へ? あ、ありがとうございます。でも、大丈夫です。今日分からなかった問題は、先輩に教えてもらいましたし」
「…………そう」
先程より、少しだけ肩を落として歩く師匠。心なしか、その穏やかな表情が陰って見えた。
そんな師匠の様子を不思議に思いながら、僕は師匠の隣を歩くのだった。
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