ナラ
賢者と将軍は、ヨシノで宿泊したのち、アスカ・大神神社を経由してナラにやって来た。
「ほお、あれが若草山か・・・本当に木が生えていないのだな」
「なんでも、毎年野焼きが行われるので木が生えていないそうですよ」
若草山。三笠山ともいわれる山である。
木が生えておらず、一面を黄緑色の芝に覆われている。
奈良の街は、観光地だけあって賑わっている。
商店街には、お土産屋さんが立ち並んでいる。
賢者と将軍が商店街を並んで歩いていると、お土産屋さんから紙袋を抱えて出てくる観光客と思われる人物。
「あ・・・」
「え・・・?」
お土産を抱えて出てきたのは、異世界の勇者であった。
「あれ?こんなところで何してんの?」
聞いた賢者の言葉を無視して、異世界の勇者は将軍に飛びついていった。
「あ~~~!将軍様。おひさしぶりですぅ~~~。会いたかったです~!」
「あ・・・あぁ、ひさしぶりだな」
抱き着いてきた異世界の勇者に困った顔の将軍様。
「将軍様~。今からでも思いとどまりません?こんな子供と結婚するなんて後悔しますわ?」
「いや、そのつもりはないが・・・」
ため息をついて賢者は言った。
「結婚式の招待状、見てくれた?直接ポストに入れといたから見てると思うけど。
まだ結婚式は3週間も先だよ?こっちに来るのは早すぎるんじゃない?」
舌打ちをして、異世界の勇者は賢者をにらむ。
「そのことで話があって来たのよ」
「話?」
「ちょっと・・・将軍様がいない所で話したいの。明日の朝9時に西大寺で待ってるわ」
「明日の朝?まぁいいけど?」
「絶対一人で来るのよ!絶対よ!」
「じゃあ、将軍様。また会いましょうね」
「あぁ・・・」
翌朝。
待ち合わせた場所は、奈良の西。
ここは、古の都・・・ヘイジョウ京があった場所。
将軍を奈良の宿で留守番をしてもらって、賢者は一人でやって来た。
時間より10分早く到着すると、すでに異世界の勇者が待ち構えていた。
「それで、話って?」
「あなたと将軍様の結婚。私は認めていないんだから」
そして、異世界の勇者は聖剣を抜いて言った。
「あなたと私、どちらが将軍様にふさわしいか・・・勝負よ!」
賢者はため息をついて言った。
「まぁ・・予想はしていたけど・・・ほんとにやるの?」
「へえ・・・でも聖剣がないようだけど、相手になるのかしら?」
賢者は、小狐丸を持っていない。
相手は丸腰・・・圧倒的にこちらに有利。
異世界の勇者は、ニヤッとわらった。
「エクスカリバー!」
【はーい!呼ばれて飛び ・・・】
「それはいいから」
賢者の手に、聖剣エクスカリバー・・である鋤が現れた。
「え・・・隠していたの・・・?」
異世界の勇者の予想では、聖剣は北海道にあるはずであった。
たとえ、呼び出したとしてもすぐには来れない・・はずであった。
「こんなこともあろうかと、持ってきてもらってたんだよ」
魔王軍御遊撃隊隊長に、持参してもらっていたのだ。
今後、聖女たちと相対するために必要になる可能性があるとにらんだためである。
「く・・・でも、これで五分と五分よ!行くわよ!」
聖剣・・・七星剣を上段から賢者に振り下ろす。
ガキン
賢者は、鋤で受け止めた。
賢者の持つ聖剣・・・鋤は先が3つに分かれている。
その分かれている間で受け止めたのだ。
「そんな、剣でもない聖剣で勝てるつもり!」
異世界の勇者は七星剣に力を込めて言う。
ところが・・・賢者は、落ち着き払って受け止めている。
すると、賢者の持つ聖剣エクスカリバーが困ったように聞いてきた。
【ええ・・・と。これ・・・折ってもいい?】
「え?」
慌てる異世界の勇者。
剣を引こうとした。
賢者は鋤を持つ手をひねった。
異世界の勇者の七星剣は賢者の鋤の分かれた先に挟まれてしまった。
ギリリ・・・という金属がこすれる音が響く。
「く・・・でも、この七星剣はそう簡単に折れないわよ!」
「う~ん・・・刀って、横方向の力には弱いから・・・多分、折れるよ?簡単に」
【そうよ。で、折っちゃっていい?】
ピシッ・・・・擦れた部分、七星剣の刃が・・欠けた。
頑丈に鍛えられた鋤に対し、斬ることに特化した剣。
強度が、全く異なっている。
また、聖剣としての格も段違いであった。
エクスカリバーは、別名”天叢雲剣”。
日本の三種の神器の一つである。
【じゃあ、折っちゃうね。せ~~~の~~~】
「うわ~~~!!タンマ!タンマ!帰れなくなる~!!」
涙目で訴える、異世界の勇者。
聖剣が無いと、日本に戻れなくなる・・・
結局、異世界の勇者は土下座をしてあっけなく負けを認めたのであった。
奈良の宿に戻った賢者。
しかし、そこには将軍の姿は無かった。
部屋に残されたメモ。
『将軍は預かった。返してほしくばオオサカ城にて待ってます』
そのメモをくしゃっと握りつぶした賢者。
唇をかみしめたのであった。
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