断罪
「聖女様~!!」
「聖女様バンザーイ!!」
王都へ向かう街道。
多くの兵士が整列して進んでいく。
そこには、なんと魔王軍も一緒に参加している。
地方から駆け付けた貴族たちが合流していく。列の人数がどんどんと増えていく。
そして、その列の中心には豪華な馬車。
扉は閉まっていて中は見えないが、聖女様が乗っているようだ。
民衆は馬車に向かって手を振り、歓声を上げる。
そのうち、パレードの後尾について一緒に歩き出す人々が現れてきた。
パレードの人数は数万人に膨れ上がっていた。
王城の謁見の間。
玉座に国王が座っていた。
周囲にいた側近たちはすべて逃げ出した。
本来は、王城を守るはずの近衛兵もバラバラになり、大部分は聖女のパレードに加わったらしい。
だだっ広い部屋の中、ただ一人。
逃げ出そうとも思った。
亡命も考えた。
だが、どの国も受け入れてくれなかった。
扉が、大きな音と共に大きく開かれた。
伯爵を先頭に、貴族たちが入って来た。
ズカズカと大きな足音を立てて、玉座の前に進んでくる。
その中に、スレンダーな美女。背の高い兵士を連れている。
うわさに聞いたことがある姿。あれが魔王なのであろう。
その後ろから、少年に連れられて聖女と魔法使いも入ってくる。
「なんだ貴様ら。王の御前じゃぞ。敬意を示せ!」
精一杯の威厳を保つため、低い声で国王は怒鳴った。
だが、その言葉にも彼らは止まることは無く、国王を取り囲んだ。
伯爵は跪くことさえなく、立ったまま問いただしてきた。
そこには、もはや敬意のかけらもない。
「国王よ・・・あなたに聞きたいことがある」
報告書を取り出し、読み上げ始める。
「国宝として大切に保管していたはずの、鎧・盾・槍だけでなく、宝石や絵画まですべて売り払っているというのは真実か?」
「・・・・」
「また、周辺諸国に金や資源を無心し、その対価として聖女様を差し出そうとしているというのは本当か?」
「・・・・」
「この王国は、あなたの父親が守って来た偉大なる国なんですぞ!答えよ!国王よ」
国王は無言のままである。伯爵をにらみつけている。
「答えてください!国王よ!」
すると、何人かの貴族が他国の大使と共に入って来て告げた。
「伯爵さま、A国とC国の大使殿が話してくれました。その報告書の通りだそうです」
「宝物庫を確認しました。かなりの数の宝物が失われておりました」
「証拠がそろってしまいましたな・・・もう、申し開きもできますまい」
すると、国王はギリギリと歯を食いしばりながら絞り出すように言葉を発した。
顔を真っ赤にしながら、伯爵を物凄い形相でにらみつけている。
「何が悪いというんだ。おれは国王だぞ・・・この国をどうするかはわしの自由だ!!」
「・・・このままでは王国は滅亡してしまいますぞ」
「そうなったら、お前らが悪いんだ!! 国のために体を張るのは当たり前のことだろう!! 聖女もそうだ!! 使えるものは、誰でも使って何が悪い!」
「愚かな・・・女神に選ばれた聖女様に対して、何たる冒涜を・・・」
「女神なんぞ知らん!! この世界で一番偉いのは俺だ!! みんな控えんか!!」
わめく国王を、みな冷ややかな目で見下ろす。
ため息をついて、伯爵が言った。
「連れていけ。国王様には、王の座を降りていただく」
兵士たちに腕を取られて、玉座から引きずり降ろされる。
「離せ!何をする!」
「東の塔に幽閉せよ・・・」
連れられて行く国王。それを貴族たちは冷たく見送った。
引きずられて連行されながら、国王はわめき続ける。
「俺は王なのだぞ!控えい、控えおろう・・・・」
だが、もう誰もその言葉を聞く者はいなかった。
その場に残った貴族たちは、集まって話し始めた。
「さて、この後は誰が王となるかだが・・」
「困りましたな・・・伯爵さま、いかがでしょうか?」
「いや、私はそんなつもりはありません。恐れ多い事です」
「しかし・・・」
国王には、子なかったのだ。
他に、王を継ぐことのできる血筋の人物が思い当たらない。
「しばらくは、王の座を空けるしかないかと」
「それでは、誰が国を立て直しの指揮をすればいいのか?」
「・・・困りましたな」
国王が連れていかれる光景を見ているのか見ていないのか。
聖女は、無表情でうつむいたままであった。
もはや、その瞳にはなにも映っていないようだ。
「聖女様、これでもう大丈夫ですよ」
魔法使いが話しかけるが、反応しない。
心を閉ざしたまま。
賢者は、そんな聖女様を見ながら思った。
僕に、何かできることは無いのかな?
『聖女様の精神世界に入り、説得することは可能です』
そうなの?どうやって精神世界に入るの?
『聖剣を使えば可能です。聖剣には、時空を切り裂いて世界の扉を開いたり閉じたりする力があります』
え~、あの鋤?
『小狐丸にも可能です』
”ご主人様!ぼく頑張るよ!”
あ、そうなんだ。
賢者は認識阻害のスキルを発動した。
そして、腰の鎌・・・小狐丸を取り出した。
じゃあ、小狐丸。よろしくね。
”はいはーい!では、いっきまーす!”
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