王都への道
「国王様。大変です、魔王軍が上陸してきました。すでに上陸していた魔王と合流し都に向かっています」
それを聞いて、国王は慌てた。
「な・・・なんだと!? 魔王国とは和平条約を結んだのではなかったのか?」
「それは、そうなんですが」
「誰か!誰か、魔王軍を迎え撃て!」
「現在、サイの国にて伯爵が魔王軍と対峙しているとのことです」
すると国王は、ホッとした表情になった。
「伯爵か。あやつが対処するならばなんとかするだろう」
「大丈夫でしょうか?援軍を送ったほうが、よろしいのでは?」
「伯爵は戦闘になったら無敵だからな、大丈夫だろう」
「はぁ」
「それに伯爵は馬鹿だが、真面目だからな。和平条約を結んでおいて攻めてくるような相手は決して許さんだろうさ。全勢力で叩き潰しにかかるだろう」
国王は安心しきって、王座にふんぞり返った。
「魔王を殺せはできないだろうが、生け捕りくらいはできるんじゃないのか?」
サイの国のゴンゲン堂堤。
大軍勢を従えた、伯爵は魔王軍に向かって大声で告げた。
「和平条約を結んでおいて攻め込むとは、だまし討ちのつもりか!?
魔王軍よ!!ここで成敗してくれる!!」
それに対する魔王。
ニコっと笑って、両手を広げて伯爵に声をかけた。
「いや、それは完全に誤解じゃ!我らに戦闘の意思はないぞ!」
「何を言う!、それでは、なぜそんな軍勢を引き連れているんだ!?」
すると、魔王は背後にいる聖女と魔法使いを示して言った。
「我らは、あくまで聖女の護衛をしているだけじゃ!!
こんなところで、立ち話もなんだのお。どこかでゆっくりと話さないか?」
「なんだと!?そんなことが信じられるか!?聖女様を開放しろ!!」
すると、聖女の隣に隣りにいる魔法使いが、大きな声で叫んだ。
「伯爵様、本当なんです! 魔王様は、私達を守ってくれています。
伯爵様も聖女様の苦境をお助けいただけないでしょうか!?」
魔法使いの言葉に、伯爵は迷った。
聖女は、無言でうつむきながら立っているだけである。
ただならぬ雰囲気が伝わってきた。
「伯爵様・・いかがしましょうか?」
「騙すつもりかも知らんが・・・聖女様と魔法使いが向こうにいる以上、手出ししにくいな。まずは話を聞くとしよう」
「な・・・な・・・何たる破廉恥な!?」
伯爵は、報告書の紙の束を握りしめ、ワナワナと肩を震わせた。
「これは、捏造ではないのか!?」
「この報告書は、私が調べた調査結果だよ。正真正銘、事実です」
魔法使いが悲しそうに答える。
「わしも、一人の女性として、こんな酷いことは看過できなくてのぉ・・・
聖女とは知らぬ仲ではないので、なんとかしてやりたいのじゃ」
真剣な顔で、魔王が言う。
やがて、真っ赤な顔で報告書を読んでいた伯爵が立ち上がり・・・
魔王に、深々と頭を下げた。
「魔王殿。疑ってしまい、誠に申し訳ない。許してほしい」
「頭を上げるのじゃ、わしよりも聖女をなんとかしてやろうぞ」
その間。聖女は無表情に椅子に座っているだけ。
少年が、お茶を運んで提供するが反応しない。
「聖女様は、どうしたのでしょう?」
「ショックだったのか・・完全に心を閉ざしてしまってのう・・・」
「なんと・・哀れな・・」
伯爵は信心深く、聖女を女神のように信仰している。
その聖女に対する、国王のあまりの仕打ち。
とても、許せる内容ではない。
伯爵は決心した。
「私は、これから王都に行き国王に真意を問いただそうと思います。
そして、万が一にも事実なら・・・やむおえません」
「わしもな、最後まで聖女を保護させてもらうぞ」
「いや、そういうわけには・・」
「まぁ、そう言うな。行きがかり上、最後まで突き合わせてもらうぞ」
すると、部屋の外で剣を切り結ぶ戦闘音が響いてきた。
「伯爵様!!曲者です!!お気をつけください!!」
その声と同時に、扉を破って数人の黒装束の男たちが部屋に飛び込んできた。
その時、伯爵は見た。
聖女にお茶菓子を運んでいる少年。その姿が、ゆらっと陽炎のように揺らめいた。
次の瞬間、飛び込んできた男たちがバタバタと倒れていき、床に這いつくばった。
まさに、一瞬の出来事。
「あ・・・・、一体・・・? そなたは何者だ?」
すると、少年はにっこり笑って言った。
「あ、僕は魔王様のところでお世話になってるんです。一応、賢者で勇者らしいです」
伯爵は、背筋が凍った。
賢者であり勇者である者がニーガタで一晩でイガの一万人の軍勢を倒したとの噂を聞いている。
目の前の、童顔の少年が、その人物であるとは・・人は見た目によらない・・・
黒装束の男たちの持ち物を調べる。
「これは・・イガの間者だな・・・」
イガの者。国王が好んでよく使うと聞く暗殺部隊。
これで、国王に対する疑いはますます真実味を帯びてきた。
「これは・・・覚悟をせねばならんな・・」
伯爵は、各地の諸領主や教会の司教などに手紙を書き、早馬を出した。
全ては、聖女様の基に団結することを依頼するために。
「国王様!!た・・・大変です!?」
「どうした?まさか、伯爵が魔王に負けたとは言わんだろうな?」
真っ青な顔の側近に向かって、王座にあぐらをかいた国王がめんどくさそうに聞いた。
「そ・・・それが・・・!!」
「だから、なんじゃ?」
「伯爵の軍勢と魔王軍が合流して、一緒に王都に向かってきます・・・」
国王は、ぽかんと口を開けた。
「・・・・・なっ・・なんじゃと・・・?」
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