第2部 プロローグ② ヨコウミ

 王国に戻って来た聖女は、国王に呼び出された。

 仕方なく、国王の座る玉座の前に魔法使いと共に跪いた。

 

「聖女よ。この度の魔王の所業を許すわけにはいかない。そうではないか?」

「国王様。お言葉ではございますが、今回は勇者がか弱い女性を襲おうとしたことに原因があります。あくまで、勇者の犯罪に対する正当防衛と思われます」


 国王は、その言葉に怒りを覚えた。

 聖女のやつ・・・ちょっと民衆に人気が出たからと言って、私の言葉に逆らいおって・・・

 だが、今はそれよりも勇者だ・・・


「ところで、聖女よ。勇者が命を落としたという事は、別のものが勇者の称号を手にしたという事だ」


 勇者の称号は、世界でただ一人が持つとされている。

 そのため、勇者が死んだときは新たに勇者の称号を持つものが現れるのだ」


「はい。伝承ではそうなりますね」

「そこでじゃ・・・そなたと魔法使いで新たな勇者を見つけ出して来てくれ」

「え~~何でですか?」

「魔王を倒せるのは勇者だけだからだ」

「今は、魔王と和平条約を結んだからその必要がないと思います」


「愚か者!外交と言うものはだな、相手に対して優位に進めるためには抑止力が必要なのだ。いいから、勇者を探してこい!」

「は~い」

 まずは、賢者の実家のヨコウミに行こうかしら。



 退室していく聖女と魔法使いを見ながら・・・国王はギリギリと歯ぎしりをした。

 聖女・・・すっかりわしのことを舐めおって・・・




 賢者は、ヨコウミの実家で原因不明の病に寝込んでしまっていた。

 高熱にうなされている。

 医者を呼んでみてもらったが、原因は不明だという。

 だが、何らかの心当たりがあるらしく一度帰って出直してくるらしい。


 せっかく、良質のトマトの苗とビニルハウスの材料を手に入れたというのに・・・


 高熱で、ぼ~っとしながらいろいろ考える。

 将軍様や魔王様は元気にしているだろうか?

 プリンはたくさん作り置きしていたけど、食べ過ぎていないだろうか。

 頭の中に浮かぶのは、北海道の人たち。

 

 早く帰りたいなぁ・・・


 実家にいながら、”北海道に帰る”という感覚になってしまっているのだ。


 次の日。

 相変わらず高熱で寝込んでいる賢者の元に、牧師がやって来た。

「なんの・・用ですか・・?牧師さん」

 すると、牧師は意外なことを言った。

「いやあ、医者が是非見てくれって言ってるんだ。そなたの症状がある現象に似ているって言っていてね」

「現象?」

「ふつうは子供の時にかかるんだけどね。新たな称号を手に入れた時に高熱が出ることがあるんだよ」

「はぁ・・・」

「その場合は、2~3日で回復するので心配はいらない。では調べてみるよ」

 そう言って、目をつぶった。


「おぉ・・やっぱり。称号が増えている」

「はぁ、そうなんですか」


 賢者は嫌な予感がしてきた。


「まさかの、”勇者の称号”じゃ!賢者の称号といい、世界でただ一つの称号を2つも獲得するとはの」



「・・・お願いです牧師様。お願いですから、このことは内密に・・・」


 すると、牧師様はグッとサムズアップして出て行った。

 やばい、アレは絶対に上司に言うつもりだ。



 賢者は、熱にうなされながら着替えをまとめ、窓から逃走した。

 ふらつく足取りで、西に向かって行った。





「なんと、それは誠か?」

 国王は、教会に忍ばせている密偵から報告を聞いた。

「賢者と勇者の称号を一人の人物が持っているとはな・・・驚きじゃ」

 しばらく考えたのち、部下に指示した。

「男爵をここに呼べ」



 イガの国の男爵。

 スパイから破壊工作。果てには、暗殺もやる。

 王国の汚れた仕事を一手に引き受けている闇の部隊を率いているのであった。


「国王様、お呼びでしょうか?」

「男爵、そなたに頼みたいことがある」

「なんでしょう?」


「賢者がこの度、勇者の称号も得たそうだ。そこでじゃ」

「はい」

「賢者をここに連れて来てくれないか? なお

「ほお・・・といいますと?」

「賢者は、魔王と懇意にしており、魔王領に住んでいるそうではないか。だが、勇者の称号を持つものは魔王への抑止力として確保せねばならん」

「なるほど」

  片方の口角を上げて、男爵はにやりと笑った。

「つまり、殺してしまえば新たな勇者がどこかで見つかるということですか・・面白い」

「引き受けてくれるか?」

「お任せください。我ら、イガの衆にできないことはありません」

「おぉ頼もしいの」

「では、失礼いたします」


 その日のうちに、男爵は数十人の暗殺部隊を引き連れて西に向かった。


 目的はもちろん、賢者兼勇者の命である。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る