魔王と聖女

 魔王城の謁見の間。


 玉座に座る魔王の前に縛られた聖女が将軍によって連れてこられる。

 疲れてはいるようだが、ケガとかはしていないようだ。

 手荒なことはされていないらしい。


 賢者は、扉の陰から様子をうかがっている。

”魔王城に賢者がいることは、王国に知られない方が良いじゃろ”

 魔王に言われたのだ。


 魔王の前に座らせられる聖女。

 縛られていると、おっぱいの大きさが更に強調されている。


 スレンダーな魔王は、聖女を見て思った。

 ”こいつ、気にいらん・・・”


「おぬし・・聖女だそうじゃな」


 魔王の言葉に、目を泳がせる聖女。

「ごまかしても、無駄じゃ。わしは鑑定の力を持っているのじゃ」

 がっくりと、首を垂れる聖女。

 まだ無言である。

「そなた、魔王討伐をすると言っているそうじゃな。まさか、一人でわしを倒しに来たのか?」

「い・・いえ、違うんです」

 真っ青な顔の聖女が、頭を振る。

「私は、ただ賢者様を探しているんです」

「ほお・・・賢者とな?」

「はい、賢者様がこの国に行ったと聞きおよび追いかけてきたのです」

「ほお・・・おぬしは賢者とどういう関係なのじゃ?」

 

 聖女は気づいていなかった。

 背後にいる将軍から、冷たい殺気が漏れ出ていることに。

 聖女は、涙ながらに話し始めた。


「初めて出会ったとき、あの方は私の瞳を見つめて言ったのです。

 どこまでも、一緒に行こうと。

 そんな賢者様に私は、全てをさらけ出しました。

 だから・・私は、あの方を追いかけて・・・」


 ジャラン・・・


 将軍が無言で刀を抜き放った。

 ”将軍ダメです!!”

 周りにいる何人もの兵士たちが、将軍に飛び掛かり羽交い絞めにする。


 その時


 バァーン!!

「僕は、そんなこと言ってな~~い!!」

 扉を勢いよく押し開けて賢者が大声で叫んだ。

 

 キョトンとする、聖女様。


 魔王が、ため息をついて言った。

「おぬし、息をするように嘘をいいよるの・・・」



 その後、将軍が聖女の首に刀を突き付けて

”本当のことを言え、さもないと首を切り落とすぞ” 

 と脅した結果、聖女は洗いざらいを白状した。


「するとなんじゃ?かいつまんで言うとパワハラの国王から、セクハラしてくる勇者と魔王討伐の旅に行くように強要されていると。

 それが嫌で現実逃避しているうちにここに来ちゃったという事なのか?」


 コクコクとうなづく聖女様。


「魔法使いさんはどうしたんですか?」

「行かないって言って・・・アオモリで待ってるって・・・」

「それで、一人で来たというわけじゃな?」


 コクコク。


 魔王はあきれて言った。


「おぬし・・・ずいぶんブラックな職場で働いておるの・・・。とっとと辞めたほうが良いんじゃないのか?」


 魔王の言葉を聞いて、ぼろぼろと涙を流す聖女。


「で・・でも、私は辞めるわけにいかないの・・・辞めたら、教会のみんながどんなことになるか・・・」

「じゃあ、このまま王国に帰るか?」

「でも、帰ったら魔王討伐の旅をさせられる。きっとあの勇者に手籠めにされる・・・」


 エぐエぐと泣く聖女。


『方法ならあります』

 え?どういうこと?

『・・・・・とすればよいかと』

 なるほど。


 賢者は、玉座の方に歩いていき、魔王に耳打ちした。


「ふむ・・・それはいいアイデアじゃ・・・」


 魔王は、紙を用意させ、サラサラと文章を書いた。


「のう、聖女よ。ここにサインするのじゃ」


 そう言って、その紙を聖女の前に置く。

 その紙には、こう書かれていた。


   【和平条約】 甲:魔王国 乙:王国

   甲および乙はお互いの領土に攻め込まないことを約束する。 

   以下略


「ここに、国王代理:聖女とサインするのじゃ」

「え・・・でも、そんなの勝手にサインしたらだめなんじゃ・・・」

 魔王は、ニコニコと笑って言った。

「ほお・・・それとも、おぬしは魔王討伐の旅とやらがしたいのか?」


 国王と勇者の、ニヤニヤといやらしく笑う顔が脳裏に浮かんだ。



 聖女は、躊躇なくサインすることを選んだ。



 魔王もサインし、2部作られた条約をそれぞれが所持した。


 魔王は、にっこりと笑って言った。

「では、おぬしを解放するとしよう。だが賢者は渡さん」

 将軍が、無表情に言った。

「私が責任を持って国境まで送り届けてやろう。だが賢者は渡さん」


 ニコニコと微笑みながら聖女を見送る賢者。

 ひらひらと手を振っている賢者を見ながら聖女は思った。



 ずいぶん、いい待遇ね。



 聖女は、賢者がうらやましかった。


”きっと、国王に怒られるんだろうなぁ・・・”

 聖女は王国に戻ったら、またブラックな職場だという事に絶望した。

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