ソーウンキョー

 賢者は、すぐさま魔王城に連行された。

 といっても、拘束されてはいない。賢者の横に将軍が張り付いて守っているからだ。


 魔王城があるのは、北海道の中心。険しい山の中にあるソーウンキョー。断崖絶壁に囲まれた要所である。


 魔王の座る玉座の前に連れてこられた賢者。

 どうしたらわからないので、とりあえず正座してみる。


「それで、少年よ。そなたは賢者ということじゃな?」

「自分では良くわからないけど、そうらしいです。なにかの間違いじゃないかと思うんですが」

「ふむ・・・どれどれ・・・」


 魔王は鑑定を行った。


「賢者の称号を持つものは、通常の人間よりもスキルの取得が容易と言い伝えられておる。しかもスキルの数に上限がない。・・・ほお、お主は随分多くのスキルを持っておるな・・・」

 鑑定により、スキルが見える。少年の持つ数百ものスキル。普通では持ち得ない量である。しかも、いくつものスキルがMAXになっており、伝説のスキルまで獲得している。


 この少年は、賢者で間違いない。

 だが、まったく害意はないようだ。戦闘用のスキルもあまり無い。


「しかも、賢者の称号を持つものは称号より叡智を授けられるという。心当たりはないかえ?」


 あ、いつも聞こえる声が賢者の称号の言葉だったということ?

『イエス、マイマスター。まさか、いままで気付いてなかったのですか? まったく、情けない』

 持ち上げるかディスるか、どっちかにしてほしいなあ。

『ディスられたいのですね?』

 そんな事はありません。


「やはり、そなたは賢者ということで間違いないようじゃな」

「はぁ・・・残念ですが」


 魔王は、賢者の持っているスキルを眺めながら思った。

 所有しているスキルが妙に偏っている。

 これらのスキル。伝説のスキルもある・・・


「のう、賢者よ」

「はい、魔王様」


 魔王は、背筋がゾクゾクっとした。少年のつぶらな瞳で見上げられて”魔王様”なんて言われると・・・ドキドキしてくる。

 つい、瞳を見つめてしまう。


 カチャリ


 将軍が、無表情のまま腰の刀に手をかけた。

 氷のような視線。いつも以上に冷たく・鋭い。


「ゴホンゴホン・・・それで、賢者よ。一つ頼みがあるんだが」

「はい、何でしょう魔王様」

「試しに、わらわに食事を作ってくれないか?」



「いやあ、思った以上にうまいのお。絶品じゃ」


 魔王は、ラムステーキを頬張りながら、上機嫌で話す。

 食卓では、将軍も一緒に一心不乱に食事を取っている。


「のう、賢者よ・・・お主、わしの専属料理人にならんか?」


 チャキ!!


 将軍がいつの間にか刀を手に取り、鯉口を切っていた。

 魔王を睨んでいる、目が怖い。口の端っこにソースが付いているが。


「あはは・・・冗談じゃ。将軍、刀を納めい・・・」

 この女、本気で殺る気じゃな・・・

「週に4回ではどうじゃ?」

 チャキ!!

「では、3回・・・」

 チャキ・・・


 結局、週に2日。将軍が報告に来るのに同行して魔王城に来ることで交渉はまとまった。


「ところで、賢者。お主は何がしたいんじゃ?」

「私は農家出身なんで、本当は農業がしたいんですが・・・」

「じゃあ、城の裏にキッチンガーデンを作るのはどうじゃ?作った作物を我らに料理してくれれば良い」


 賢者は、目を輝かせた。


「いいんですか?」

「もちろんじゃ、我らも新鮮な野菜を食べられるなら喜んで手を貸すぞ」

「素晴らしいです!魔王様!」


 キラキラした目で見つめて賢者。

 魔王は、なにか性癖がくすぐられる気がした。


「春はキャベツ。夏はとうもろこし。秋にはじゃがいも・・・この国は本当に素晴らしいですね。あ・・・でも、冬は何が取れるんですか?」


 すると、魔王はニヤッと笑って言った。


「愚か者・・・。冬は遊ぶに決まっておる。

 皆で巨大な雪の像を作って競ったり。スキーにスノボー。スケートもあるぞ。あとは、寮の2階から雪山に飛び降りるジャンプ大会」

「魔王様、それは学生が勝手にやっていることです」

 冷たく、将軍がツッコミを入れた。


 賢者は、感動していた。

 賢者が、ずっと望んでいた暮らしスローライフ。それがこの国にある。

 まさに、賢者の求めていた理想の土地であった。


「魔王様!将軍様! 僕はずっとここにいてもいいですか?」


「もちろんじゃとも、よろしくな」

「魔王様、賢者はハコダテに連れて帰ります」

「将軍よ・・・そんなに冷たいこと言わんでも・・・」


 上司と部下の間には、溝ができたようだった。


 


 2週間後。賢者は、魔王城の裏に確保してもらった土地を耕していた。

 ちなみに、ハコダテのゴリョーカクにも畑を作らせてもらっている。

”ここには何を植えようかなぁ・・・やはり、じゃが芋かな”

 そう考えながら耕していると、魔王の部下がやってきた。


 賢者は、作ったプリンなどを魔王城の皆に振る舞っていたので、すでに仲良しになっている。


「賢者、ちょっといいか?」

「はい、どうかされましたか?」


 なにか、困っているようである。


「どうしましたか?困ったことがありましたか?」

「それがな・・・魔王領に潜伏していた人間が捕まったそうだ」

「大変だ。何人くらいですか?」

「それがな、女が一人だけなんだ。なまら胸がでかい女だっていうんだが」


 賢者は頭を抱えた。

 まさか、魔王領まで追って来るとは思わなかった。


「それ、たぶん聖女様です・・・」




◇◇◇◇◇◇◇


 長くなったので分けます・・・

 15〜6話では終わらなかった。

 ちょっとだけ、延びます。

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