これも青春

勝利だギューちゃん

第1話

「ほら、五十嵐さんも歌おうよ」


わしは今、ひとりの女子女子高生とカラオケに来ている。

彼女の名前は、結城麻衣。


パパ活とか、そんないかがわしい関係ではない。

彼女は、上司の娘さんだ。


その上司と麻衣さんは、父子のふたりぐらし。

奥さんは麻衣さんがまだ、小さいころに天に召された。


そのために、上司の結城さんと麻衣さんは、助け合って生きてきた。

多少の反抗期はあるようだが、仲はいいらしい。


結城さんは、仕事で出張なので、その間あずかってくれとのことだ。

「それは、いろいろと問題ではないんですか?」

「大丈夫だ、麻衣も五十嵐君を信用しているし、もちろん私もだ」


こうして、時々たのまれる。

麻衣さんの頃は小さい時から知っている。


「ほら、早く歌わないと時間がないよ」

麻衣さんが、せかす、


私も、今年で50歳。

気ままな独身暮らしだ。

結婚経験はない。


でも、麻衣さんのような、娘がいてもおかしくない。


麻衣さんは、わしをからかっているだけなのか、冷やかしなのか・・・

でも、それでもいい。

麻衣さんといれば、甘酸っぱい思い出がよみがえる。


「五十嵐さんも、何か歌ってよ」

「麻衣さん」

「何?」

「昔みたいに、おじさんとは呼ばないんだね」

「私も高校生、そのくらいの礼儀はわきまえてるよ。五十嵐さんこそ、麻衣ちゃんとは呼ばないんだね」

「君ももう、高校生だからね」

「麻衣ちゃんでいいよ。私も、功さんって呼んでいい?」


功は私の、ファーストネーム。

照れくさいが、いいだろう。


「じゅあ、功さん。歌って」

「急にいわれても」

「カタログ見てたでしょ、歌ってよ。なんでもいいから」

「麻衣ちゃんは?」

「私は休憩」


仕方なく歌う事にした。

でも、最近の曲はわからない。


それに、レパートリーも少ない。


しかし、覚悟を決めた。

私は、曲を送信して、イントロが流れ始めた。



「あれ?この曲は・・・」

麻衣ちゃんが、不思議そうに見ている。


もしかして、知っているのか?

知らなそうな曲をいれたのだが・・・


でも今はいい・・・

私は、歌い始めた。


西郷輝彦の、【願い】


歌い終わると、麻衣ちゃんが拍手をする。


「功さん、すごい。とても上手い。感動した」

「そう?」

「うん。もっと聴かせて」

「でも・・・」

「でもじゃない。」


女子高生を遅くまで、連れ出すのは、さすがにやばいと思われる。


「親戚みたいなものだから、大丈夫だよ。」


私は独身の妻子なし。


でも、この子といると、気が休まる。

そう遠くないうちに、彼女も私なんて、相手にしなくなる。


でも、それまでは・・・

少しは疑似青春を体験してもいいよな。

神様。


「じゃあ、歌おうか、麻衣ちゃん」

「うん」


その日は楽しかった。


麻衣ちゃんはその後、すぐに彼氏が出来た。

もう、私と関わることは、減るだろう。


でも、私も麻衣ちゃんの幸せを祈ろう。


想い出をありがとう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

これも青春 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る