第3話 修行再開
「うぅ……こ、ここは?」
気がつくと俺はベッドの上で横たわっていた。
「あっ、やっと目が覚めたか! 全くいつまで寝てるんだってくらい寝てたぜ、お前」
声の主の方を見るとそこには一人の少年が立っていた。
「貴方は、私が死ぬ間際にーー」
「へっ、死んでねーっつうの! お前が死ぬ間際に俺が助けてやったんだよ! それに、お前が寝るためにわざわざ俺のベッドまで貸してあげてるんだぜ? ったく感謝しろよな!」
「あ、ありがとう」
自然と口から感謝の言葉が出た。彼は命の恩人だ、感謝しても仕切れないだろう。命を助けてもらうということはそれほどのことだ。
「へっ、へ、別に俺は大したことしてねーよ。だから、感謝するなら俺じゃなくてあのジジイに言うんだな。俺がわざわざ夜外に出たのもジジイが行ってこいって言うから渋々言っただけだしな!」
「フォッフォフォ、まだ儂に一度も勝ててない若造にジジイ呼ばわりされる覚えはないんじゃがのう。それより、お前さん目が覚めたかのう、どうだ、気分は優れておるか? 体に異変はないか?」
奥からお爺さんがやってきた。確かに顔つきは老けているように見えるが、その反面体はがっちりと鍛えられており、とても老人には見えない。
「あ、はい、大丈夫です! おかげさまで体も……」
そこで俺はある違和感を感じた。決して体調が悪くなったわけではない、むしろ最高すぎるほどだった。そして、その違和感とは俺の体調が良すぎることだった。俺は両足を失っているんだぞ、そんな少しの痛みも感じないなんてことがあるわけ、、
「足が、生えてる!?」
「ん、まだ気づいておらんかったのかい? 儂が治しておいたぞい。人の体を治すのは久しぶりじゃからちと不安じゃったがの」
そういってその老人は俺に向かってウィンクをした。
「あ、ありがとうございます! 本当に、ありがとうございますっ!」
「フォフォ、礼には及ばんよ。人を助けるのに理由なんて必要ないからのう。それよりも、お主について話してはくれんかの? お主が何故この森に、しかも一人でいるのか気になって仕方がないでのう」
俺は聞かれるがままに今までの出来事について説明した。自分がウルス家であること、祝福が剣士でなかったこと、父からここに来るよう言われたこと、そして魔物に襲われたこと。
命の恩人に隠すことなどなく、全て事細かに説明した。
「ほう、ウルス家の者が魔法士の適性が出るとは、非常に稀有なことじゃのう」
爺さんは俺の話を聞いて、目を細めながらそういった。
「と言うことは、お前さんはもう帰るところもないのじゃろう? それならここに住んでみるのはどうじゃ? 追放された者が一人で生きていくのはしんどかろうて」
「げ、ジジイ。まじで言ってんのか?」
爺さんのその提案は俺からしてみれば願ったり叶ったりの申し出だった。
「逆によろしいのですか?」
「フォッフォ、なに遠慮することはないぞ? 儂はもうこの森で隠居しておるただの老ぼれであるから同居人は大歓迎じゃし、魔法に就いても少しばかり心得があるから、魔法士について教えてあげられることもあると思うぞ?」
俺に断る理由は一つも見つからなかった。
「あ、ありがとうございますっ! よろしくお願いします!」
本当にいたのだ、森に賢者が。
❇︎
そこから俺と爺さんの同居生活、もとい修行が始まった。
そして、その修行は俺を森からここまで運んでくれた少年と一緒に行うこととなった。
「モネです、これからよろしくお願いします」
「へっ、敬語なんて使うなよ。祝福の儀を受けたばっかってことは俺と同い年ってことだろ? タメ口でいーよ。それと、俺はヴィットだ」
そう言ってヴィットは手を差し出してきて握手を求めてきた。俺と同い年なのか。確かに背丈は同じくらいだからあり得なくもないか。このヴィットはツンツンしてるけど普通にいい奴だ。そうでなければ俺をここまで運んできてくれるわけがない。
「言っとくがここのジジイの修行はマジで頭おかしいからな、どうなっても知らねーぞ?」
「あぁ、俺にはここで強くなるしかないからな、望む所だ」
「へっ、いってら。今のうちだけだぜ?」
そんな感じで俺の、爺さんとヴィットの共同生活は始まった。
朝は早く、夜明けと同時に目覚め、そのまま外に出てランニングをする。賢者の森だから魔物がたくさんいるんじゃないか? と思ったが、なぜかヴィットと走っていると全く魔物に遭遇しなかった。
もしかしたらヴィットには特別な力があって、その力で俺を爺さんの家まで連れていってくれたのかもしれないな。
そしてランニングが終わると次は瞑想に入る。この瞑想はタダの瞑想じゃなくて魔力を感知、操作、増大させることを目的に行っているのだそうだ。
時には座って、時には歩きながら、瞑想を行い、魔力を感じてはそれを操作していく。体の一部に集中させたり、逆に満遍なく体に行き渡らせてみたり。爺さん曰く、魔力の操作を息を吸うようにできなければ半人前、らしい。
瞑想が終わると、お昼ご飯だ、爺さんの庭に生えている野菜と絶対に賢者の森にいたであろう、オークの肉を大量に平らげる。
体力と集中力を限界まで酷使するため、料理を口に入れる手が止まらない。
昼の食事が終わると今度は、魔法について教わる。最初は簡単な魔法の詠唱練習から始まり徐々に難しい魔法について爺さんに教わっていった。
まあ実際のところ体は動かしてはいるものの、半分座学のような時間だ。まあ、午前中に体は使い切っているから午後は頭ってわけだな。難しい魔法に関しては、今すぐ覚えるのは無理だからと概略だけを学んだ。
そしてそれが終わるともう夕食の時間だ。メニューは特に決まっていないが、恐らく爺さんが獲ってきたであろう肉をひたすらに喰らい尽くす時間だ。
夕食を食べ終えたら風呂に入り、そのあとは自由時間だな。好きなことをしていいと爺さんに言われている。ヴィットは意外にも本を読んでこの時間を過ごしている。
なんでも、頭がよくなければこの世界は生き残れない、らしい。ヴィットなりの考えがあってのことだろう。
本を読むのもアリだと思うが、俺にはやらねばならないことがある。
そう、この時間は俺に与えられた、唯一剣の鍛錬ができる時間なのだ。
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