第二十二話 授業は少なく、おしゃべりは多く、僕は困惑 1
次の日から、言った通りにおじいちゃんが魔術の披露をしてくれた。
おじいちゃんが使う魔術は、極限まで無駄を取り除いた、超実戦型の魔術だと教えてもらった。
必要最低限の威力をほんの一瞬だけ標的の間近で発動させるのだとか。
鉄の鎧を数個用意して、その股下から魔術を発動させ貫かせていたけど、魔術そのものは見えなかった。
鎧なんて狙わずその隙間を狙うとかなんだか
皆恐れおののいていた。これは防げないとか、後ろからさすがは
遠距離発動出来る人は一握りしかおらず、一瞬で発動できるのはさらに限られてくるとか。
詠唱して手元の杖などから発動させる僕が思い描いていた魔術も見せてくれたけど。
おじいちゃんはこんなの魔力の無駄だとか言ってたけどこれの方が一般的な魔術師の魔術らしい。
おじいちゃんも忙しいらしく、それだけでおじいちゃんの授業は終わった。
今日はアリアちゃんも来てないから後は自習の時間になるけど、僕は魔術の基礎を勉強をしろとおじいちゃんから本を渡されたからしていたけど、オルカさんやドドンドンさんの人は帰って、竜獣人の三人たちは戦闘訓練、ルル君は本を見てくると言って出ていった。……このクラス適当すぎない?
あと、僕達の席は一応決まっているんだけど、別に移動しても良いしタツキさんとラムアリエスさんみたいに一緒の机でも別に咎められない。
……なぜ、いきなり僕がこんなことを言っているのかというと。
『ルカ、辺境伯様は、すごいね』
「は、はい。僕はあんまり知らなかったんですけど、すごかったんですね」
僕の隣にセレスティナ様が座っていた。
しかも、話す時は何故か耳打ちしながらなのでくすぐったいし、ものすごく気まずい。
『敬語なんて、私には、いらないわ』
「嫌でも、流石にセレスティナ様に対して僕が敬語を使わないのはちょっと……」
『ふふ、断られ、ちゃった』
セレスティナ様は断ったことを、何故かものすごく嬉しそうに笑っていた。
『じゃあ、セレス、って呼んで』
「えーと、セレス様?」
『様は、いらない』
「……セレスさんでなんとか勘弁してもらえないでしょうか」
『じゃあ、それで、許してあげる』
何でこんないきなり懐かれてるんだろう。距離が近いし鈴を転がすような綺麗な声だから聞いていてむず痒い。
「おいおい、セレスティナ嬢。その態度君の騎士が見たら、卒倒するんじゃないかな?」
『……』
ファニオさんがセレスさんに話しかけていたけど、セレスさんはそちらを見ずに首だけ振って否定していた。
妹さんのファニアさんは少し離れた自分の席からこちらを見ていた。
「君の噂も当てにならないね。ただの無口だったのかい?」
セレスさんは今度は僕に耳打ちしてきた。
『違う、と伝えて』
「えっと、違うそうですよ」
「そうか。だがねぇ、ルカ君には普通に話しているじゃないか。一応彼は僕の国の人間だ。あまり誑かしてもらっては困るのだがねぇ」
セレスさんは真っ赤になってファニオさんを睨んで口を開いた。
そして小声で『……黙って』とボソリだけどファニオさんにも聞こえるように呟いた。
「……‼」
「兄様!?」
ファニオさんは、何かを喋るように口をパクパクさせていたけど、声は出ていなかった。
その様子からファニアさんも駆け付けて、ファニオさんを心配していた。
「だ、大丈夫ですか。兄様!?」
『大丈夫、直ぐに、戻る』
耳元で言われたその言葉を僕がそのまま伝えると、少しは落ち着いたみたいだった。
そして、しばらくすると言われた通り、ファニオさんの声は元に戻っていた。
「……噂は本当だったということだねぇ。王族のギフトに愛されて生まれた王女とは……僕達とは大違いだ」
「お兄様もう大丈夫なのですか?」
「ああ、彼女も手加減してくれたのだろう。……すまなかった、確認したかっただけなんだ。からかうように言ってごめんよ」
「許す、だそうですよ」
「そうか、感謝するよ。……ルカ君もすまなかったねぇ」
「いえ、僕は別に……って何がどうなってるのかさっぱりわからないんですけど」
ファニオさんがセレスさんに向かって、「説明しても?」と言うとセレスさんはコクリと頷いた。
セレスティナ・、隣国の第一王女二つ名は銀の姫、エクスジグニカ王族特有の銀の髪、銀の目、そして強力な王族ギフトを持って生まれた少女。祝福の銀の姫や呪われた銀の姫などと呼ばれる場合もある。
元々エクスジグニカ王族ギフトは『カリスマ』と呼ばれる戦争時兵達を言葉で鼓舞し、兵の力を一段階も二段階も引き上げるまさに王の力というべきギフトだ。
そのギフトがセレスティナには宿っているしかも常時発動している。その言葉は絶対的な命令として相手に伝わる。
本来はそんな強大な力、喉を潰してでも封印しなければ周りの人間は安心など出来ないだろう。
だけど、王の力を封印するということは王の力をその血を否定することにもなる。
だから、封印もできず公式な場では祝福や福音と呼ばれ、影では呪いの言葉と言われることでもあった。
そんな、力を持って生まれた心優しい王女がジェスチャーだけで喋らなくなるのもしょうがない事だろう。
と、そんな話を僕にしてくれた。
「えっと、一応わかったんですけど、何で僕には効かないんですかね?」
「さあ?僕にはわからないよ」
「さあ?私にはわかりませんわ」
『別に、理由は、どうでも、いい。お話、出来るの、嬉しいから』
二人はきれいにシンクロして横に首を振って否定していたけど、当の本人のセレスさんはどうでもいいとばかりに気にしていなかった。
この喋り方も、自分が言ってはいけないことを言ってないかという確認しながら喋っているせいだとか。
生まれ持った物で苦労するってのは僕にも少し分かる。何しろ僕はギフトとかで呪い扱いされるんじゃなくて、正真正銘呪われていたからね! 自分のせいで周りが傷つくってのはとても耐えられるもんじゃない。
僕はアリーチェとアリアちゃんのお陰で何とか生きのびられたけどね。二人には返しきれない恩があるよ。
『どうしたの、悲しい、顔』
「いや、僕もちょっと家族を傷つけそうな事があって、それを思い出しただけです」
「君がかい? とてもじゃないけどそんな風には見えないよ」
「僕じゃないけど、僕だったとしか……アリアちゃんに助けてもらわなかったら、その先は怖くて言えません」
「やっぱりルカ君も、何かあったからここに来たのですね」
「やっぱりって、お二人も……」
『よしよし、いい子』
ファニアさんの言葉に僕が聞き返そうとしたけど、ふいにセレスさんが僕の頭を撫でて来たので思考が止まった。不覚にもその優しい声で少し涙腺が緩みそうだった。
「おいおい、王族の女性がそう簡単に異性に、触れるものではないよ」
セレスさんはプイッっとファニオさんから顔を背けて僕の頭を撫で続けた。
「あの、もう大丈夫ですから」
『そう? 私は、もっと、撫でけほっ』
「わっ、大丈夫ですか」
『けほっ、大丈夫、喋り、なれてない、から、ちょっと、喉が、熱くなった、だけ』
「ほら、お水ですよ」
大丈夫とは言っても辛そうだから、生活魔法でコップと水を創り出して飲ませようとした。
「ま、待ち給え、王族の女性に男性が創った水は駄目だ。妹様に創らせるから」
「すみませんそうなんですね。コップは良いならすぐに出しますので」
「コップは君の持ち物だろぅ? それは構わないよ。彼女の騎士が見たら怒るだろうけどね。あ、こらセレスティア嬢飲もうとしない、ほらこちらを飲み給え」
お水を飲んだ、セレスさんはもう平気と笑っていた。
僕出したのは飲んじゃだめだというけど、せっかく創ったので後で飲もうと机に置いた。
その時、ガラリと扉が空いてポチ君達が帰ってきた。
「あーくそっ、追い出すことねーじゃねーか、お、ルカだったか? すまねぇが、喉乾いてんだちょっとくれ」
「あ、全部いいよ」
「そっかありがてぇ。くぅー、うめぇ。お前なかなかやるじゃねぇか」
「そう? 妹も褒めてくれるからね」
「そりゃ、良い妹だ。もういっぱいいいか?」
「いいよポチ君。はい」
アリーチェを褒めてくれたからいくらでも出すよ!
「わりいな。それとポチキャニスだ」
「あ、ごめん。ポチ、キャニス君」
「何でポチで止めるんだよ」
だって、しょうがないじゃない狼と言っても犬耳にも見えるんだからついポチって言っちゃう。
「はぁ……仕方ねぇな言いにくいならポチだけで良い」
「えっ、良いの? やったね。よろしくポチ君」
「別によろしくはしねぇよ。いや、してやるからもう一杯」
「良いけど、お腹タプタプにならない?」
「たっぷり汗をかいてきたからな。このくらいは平気だ」
「へー何してきたの?」
「ちょっとだけ、戦闘訓練をな? 生徒達は雑魚だったんだが、通りすがりのおっさんが強くてな」
「あなたボロ負けでしたものね」
後ろからラムアリエスさんがポチ君にからかうような口調で突っ込んだ。
相変わらず、手と肩にはタツキさんの手と尻尾が乗っている。
タツキさんは少し疲れたようで俯いていた。アイマスクのパンダさんもバッテン目になってるように見える。
「ボロ負けじゃねーよ。惜敗だ惜敗」
「まあ、あなたがよろしければ、それで良いんじゃないですか?」
「なんだと?」
「それに姫様のための見学だったのに、あなたが暴れるから追い出されたのですよ?」
「何言ってんだ姫さんはもう見るのが限界だったろ? だから味見がてらに戦っただけだぜ」
「取り敢えず戦う。それが通用するのは、貴方の国だけですよ」
ぎゃーぎゃーと言い合う二人だったけど。タツキさんがしんどそうだったので僕が変わりに止める。
「あの、二人ともえっと……タツキ様が辛そうなので、そこまでにしておいた方が」
僕がそう言うと二人共ハッとした様にタツキ様の方に向き合っていた。
「すみません姫様」
「すまねぇ姫さん」
「良いのですわよ。……ルカ君。悪いのですがね、お水を下さりませんか?」
「えっ、偉い女性が男の創った水は駄目なんじゃ」
「私達の国はそういうのはありませんよ」
ラムアリエスさんが大丈夫だと教えてくれたけど、国で違うもんなんだね。
だったら良いかと、僕はコップも手の中で創り直して創って水を渡す。
「ありがとうだわ。……ふぉぉう! 良い魔力がこもった水だ‼」
「お、おい。姫さん!」
「あ、これは失礼をしましただわ。もう一杯いただけるかしら」
「はい」
なんか今、だいぶハスキーな声だった。無理して敬語っぽいの喋っていたと思ったら、声色も変えていたのか。
水を入れたら豪快に一気飲みしていた。上品さのかけらもないけど僕は豪快なのも見ていて気持ちいい。
「元気になりましたですわ! ありがとうルカ君」
「いえ、良かったです。タツキ様」
「私達に敬語はいらないですわぞ。タツキでいいわん」
「いいわんは流石にないぞ。姫さん」
「うるさいわんこだわん」
「おい」
先程の元気の無さはどこへ言ったのか分からないくらい、ポチ君をからかってコロコロと笑っていた。
「じゃ、じゃあタツキさんで」
「タツキでよろしいのよ」
「僕あまり呼び捨てにするの慣れてないので」
「そうなのだわ? じゃあ敬語だけでも止めてくりゃれ」
「わかりま──わかったよ。これでいい?」
「うん、それでいいですわぞ」
「それはないんじゃないかい? ルカ君」
「へっ?」
「僕達にはこんな他人行儀なのに、彼らとはすぐに仲良くなって……ほらセレスティア嬢も悲しそうにしている」
セレスさんは悲しそうというかぷっくりと頬を膨らませてご機嫌斜めですよとアピールしているようにみえる。
「あの、流石に同じ種族の王族様を敬語なしじゃ」
『私も、本当は、敬語なしが、良い』
人が増えたせいかセレスさんの囁きは僕だけに聞こえるようにか、耳に口が触れるくらい近くなっていた。これはなんか色々とやばい気がする。
「おや? これはいけないのではないかな? 僕達に敬語を止めないから彼女の騎士を呼びたくなってきたぞ」
「本当ですわ兄様。呼びたくなってきましたわ」
「脅し方が雑すぎやしませんか? わかった、わかったよ。でも、クラスの中だけで良いよね」
「それはもちろんさ、僕達が良くとも周りが許してくれないしね」
『私は?』
「うん、セレスさんもよろしくね」
セレスさんはニッコリと僕に笑いかけてくれた。でも何で皆、僕なんかに気軽に良くしてくれるんだろう?
一日目というのにこんなに仲良く慣れるなんて、僕はこのクラスでやっていけそうな気がした。
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