第十九話 学校と教室とクラスメイト 4 

 うーんこれで全員集まったのかな? 僕だけ場違いすぎるのは取り敢えず置いておくしかないな。


 前の席から教卓から見て右側で一番前が僕、その後ろが肌の青い人、ドワーフさん、ファニアさん、ファニオさんの順でその後が一個空いている。

 教卓から左側、座ってる僕からは右手側だね。一番前は竜のお姫様と羊の娘が一緒に座っている。その後ろに狼の人で、一つ空いて、マーマルズさん、銀のお姫様の順でこっちもその後が空いてる。本来、途中の一つ空いた席に羊の娘が座るんだろう。


 席順の確認をしているとガラリと扉が開き、アリアちゃんとウルリーカさん、おじいちゃんが入ってきた。えっウルリーカさん!? いやアリアちゃんもおかしいけど、予想外すぎる人が現れたので一番そこに驚いてしまった。


 アリアちゃんの格好を見ると前世のOLさんとかが着るタイトなスカートのスーツ姿で細めの赤い眼鏡を付けている姿だった。

 へーこんな服と眼鏡もこっちの世界にもあるんだ。

 ウルリーカさんはシスター帽を付けてはいないけどいつものシスター服だね。


 あ、それよりも立って礼しなきゃ。いや、こっちが高さ的には上だから降りて挨拶しないといけないのかな?

 分からないまま一応立ち上がったけど、誰一人として俯いたまま動かない。あれ? 礼儀間違えたかな? いや、他の人はお偉いさんだから座ったままでいいのかな?

 どうしようとあわあわしてたら、おじいちゃんが僕をニヤニヤと笑ってみていた。笑ってないで助けてよ!


「なんと深遠なる魔力か、我が魔力、肉体、我が血の宿命さえも縛られ凍り付き……」

 

 慌ててるとなんか後ろからブツブツと言ってるが聞こえる。やめて! 後でお布団で「あーーー!」てなるよ!?

 

「あー生徒諸君。そのまま座ったままで良い」

「は、はい」


 ようやくおじいちゃんからの助け舟が来た。

 くそう、一人だけ立っちゃって恥ずかしいな。一人照れてるとまたおじいちゃんが口を開いた。


「では、まず私の紹介から、エクスジレリア王国辺境伯の称号を頂いているクリストフェル = エク= ビューストレイムだ。諸君らの指南役としてもここにいる」


 え? おじいちゃんも先生やるの? あーでもそうか、クラスの人達がお偉いさんすぎるから下手な先生は充てられないのか。

 

「そこのハーフエルフは私の知己であり、アリア殿の補佐として特別にここに来てもらっているウルリーカだ。それではアリア殿、次をお願いする」


 おじいちゃんがアリアちゃんに促すけど、アリアちゃんはポカンとしてた。


「えーと、あれ? ウルリーカ、僕は何をすればいいんだっけ?」

「アリア様、ご自身の自己紹介と生徒さんの自己紹介を受けてください」

「そっかそっか。興味なかったから忘れちゃってたよ」

 

 いやいや忘れないでよ、その程度のこと。


「一応、君達の先生となったアリアだよ。本名は言えなくなったから勘弁してね」


 言えなくなった? 前は長いから止めとくって言ってたけどどうしたんだろ。


「種族はハイエルフ。君達をここに集めたのはル──」

「アリア様! それは言わないでいいです」

「そうかい? じゃあ僕からはもうないよ。次はこの子らの自己紹介か」


 アリアちゃんが何か言おうとしたけど、ウルリーカさんが慌てて止めていた。おじいちゃんもびっくりしたみたいで額の汗を拭っていた。


「それじゃあ、ルカ君から──」


 僕から挨拶しろと言おうとしたんだろうけど、おじいちゃんが止めに入って耳打ちして話していた。近くだから僕にはぎりぎり聞こえた。


「アリア殿、申し訳ないが我が国の王家のものからよろしいでしょうか?」

「えー、僕はルカ君が一番がいいなぁ」

「そこをなんとか曲げていただきたい。ヒューマンは色々と面倒な決まり事がありましてな、それを無視するとルカが困ります」

「あ、そうなんだ。ルカくんが困るならいいよ。僕じゃわからないから君が進めてね」

「はい、ありがとうございます」


 おじいちゃんがアリアちゃんを説得していたけど、たしかにこの面子で僕が一番手というのもおかしいよね。でも、こうなったら僕一番最後だよ? トリというのも止めてほしいな。


「では、アリア殿から承った進行をこの私が努めさせていただく、まずは我が王国から……お二人共もう大丈夫ですかな?」

「ふぅ……なんとかね。それと僕達は双子だからねぇ、二人まとめて自己紹介させてもらうよ、僕がエクスジレリア王国第七王子、兄のエピファニオ・エクスジレリア。種族はヒューマンだね。アリア様、皆様、妹共々お見知りおきを」

わたくしがエクスジレリア王国第十四王女、妹のエステファニア・エクスジレリアですわ。種族はヒューマンです。アリア様、皆様、兄共々お見知りおきを」


 ファニオさんとファニアさんは額の汗を拭いながら深い呼吸をして立ち上がって自己紹介をしてくれた。

 それにしても第七王子も多いと思ったけど、王女が多すぎる! 女の人が多い血筋なのかな?

 この前聞いた寿命が伸びると子孫残す本能が薄れるとは一体何だったのか。


「では、次に我らが親愛なる隣国エクスジグニカの銀の姫殿の番なのだが、事情があるため代わりのものに来てもらう」


 その後におじいちゃんが扉を開け外に声をかけた。


「ビューストレイム辺境伯閣下、お気遣いありがとうございます」


 現れたのは先ほど隣にいた騎士さんで入る前におじいちゃんにお礼を言うときれいな姿勢でお辞儀をした後に、かつかつと音を立てながら歩きお姫様の左後隣に立って手を後ろ回して気を付けをした。


「それでは姫様の護衛騎士筆頭である私から我が愛しき姫の紹介させていただきます。エクスジグニカ王国第一王女であらせられるセレスティナ・エクスジグニカ様、種族はヒューマンでございます。ハイエルフ様、我が姫をどうぞ宜しくお願い致します」


 紹介があってセレスティナさんは頭をペコリと綺麗なお辞儀をした。

 そこで終わりかと思ったけど騎士さんは更に続けた。


「皆様も見てわかると思いますが、我が姫はそれはもうお美しくあらせられる。もちろんその容姿だけではなく、性格も体型も仕草もその全てが美しい。事情がありお声をあまり出せませんが、そのお声を聞けば皆様方も天へと昇る気持ちになるでしょう」


 騎士さんはうっとりとした声でセレスティナさんを褒め始めた。当のセレスティナさんはぎょっとした顔をした。


「その肌はどんな名匠が作る陶磁器よりもなめらかで白く、その髪はまるでおとぎ話に出てくる月の光を集めて作られた月の糸のように繊細で──」


 褒め言葉が止まらない騎士さんにセレスティナさんは、真っ赤になりながらボソリと耳打ちをした。

 その途端、耳打ちされた騎士さんは急に喋るのを止めて、静かに出ていった。


「うむ、さすがは我が領地まで届きし美姫である銀の姫殿だ。その騎士もよほど心酔していると見える。」


 セレスティナさんは恥ずかしそうに俯いたまま僕達にペコペコと謝るようにお辞儀をしていた。

 なんか第一王女と言う割には腰が低い優しそうな人だな。


「礼を取ってこの大陸に住むヒューマン族の代表から挨拶をさせて頂いた。後の順序はその近くの者、マーマルズ巧緻なる指こうちなるゆび殿、ドワーフ炎御の剛腕えんぎょのごうわん殿、竜獣3国連合のカーブビースト牙殿、ヒルブビースト羊飼い殿、ドラゴニュート龍姫殿、その次が魔族殿だが申し訳ない。先日頂いた使者殿からの書簡が私には読めなくてな」


 さっきからおじいちゃんは名前じゃなくて別の呼び方で呼んでいる。もしかして二つ名ってやつ?

 

「ああ、我らが国の古き言の葉で書いてしまったのだな。その文字こそ我が真なる二つ名ではあるが我らが血の宿命を受けぬものには読めぬことを、我が手先に伝えるのを忘れておった。辺境伯殿には申し訳ないことをした。それは『血の覚醒を果たしし、深淵を覗くもの』と読むのだ」


 あーやっぱり二つ名だった。なんか真面目に言っているのを聞いてるとちょっとむず痒くなってくる。


「なるほど、私も勉強不足であった。血の覚醒を果たしし、深淵を覗くもの殿、礼を言う」

「うむ、礼を受け取ろう」

「そして、残った最後の者は私から説明させてもらおう」


 うーんなんか色々と回りくどいなぁ貴族ってのは大変そうだ。あ、アリアちゃんも飽きたのかウルリーカさんに話しかけてウルリーカさんが困った顔をしている。

 

「ということはウチからやね。ウチはオルカ・ベルトルカ、種族はマーマルズ、チャームポイントはこの歯やね。ウチらには王様はおらんちゃけど、ウチの父親が種族をまとめとる五大商会の一つベルトルカ商会の代表をしとうとよ。ウチらが陸に上がっとると変な目で見てくる奴らおるっちゃけど、基本的にウチらは半水半陸棲やけんね、魚じゃなかけんエラとかヒレはなかとよ。まあ、ここにいる代表なら分かっとるやろうけど、いと深き御方とその生地を纏う子は分からんやろうけん一応な。そうそう、その子が纏う制服の生地はウチが二年掛けて作った物っちゃ、ここにおるみなさんもいと深き御方が頼ったこのベルトルカ商会をどうぞご贔屓に。なんかいるもんあったらウチを頼ってな?」

 

 オルカさんは、アリアちゃんに向かって深くお辞儀をしていたけど、アリアちゃんは気付いてないみたいだった。

 ウルリーカさんから耳打ちされてようやくオルカさんの方を向いた。……ウルリーカさんに相手されなかったからって他の人の紹介の間ずっと僕を見るのは止めてほしいな。


「あ、僕に言ったんだね。うん、まあ何かあればね。あとよくわからない呼び方しないで普通に呼んでいいよ」

 

 アリアちゃんが興味無さげに返事すると、「はい」とだけ返事をしてオルカさんは座った。


「儂はドワーフ族、ミスリル級鍛冶師のドドンドンじゃ、工房を既に持っているので儂は誰かの跡継ぎというわけじゃない、儂が工房長じゃ。儂等ドワーフは老けて見えるがこれでもまだ十五歳だ。それと儂は素材につられてきただけじゃから、ハイエルフといえども、エルフの言う事なんぞ聞かんぞ」

「うん、べつにいいよ」

「ふん! ならいいわい」


 うえぇっ! ヒゲモジャの貫禄がありすぎるこの人が十五歳!? 父さんより貫禄があるんだけど!

 エルフとドワーフ仲が悪いってのもテンプレみたいなやり取りだなぁ。悪い人ではなさそうだけど、魚とか言ってたし口は悪そうだね。 


「それでは次は我だな。魔に魅入られた血の宿命を従えし、三重に偉大な我が王国ククル・ククル・ククルが王の第一子 魔族のルルイラ・ルルリエ・ルルイエである。我らが言語は古代の深淵から伝わりしもの、汝らとは少し言の葉が違うがよろしく頼む。そして、尊き息吹を受けし御方よ、その叡智を我にご教示願いたい」

「あ、今度は分かるよ僕のことだね。うんまあ、君達種族は面白いからね。いいよ」


 少し変な空気になったのをルルイラ・ルルリエ・ルルイエさんの自己紹介のお陰で元に戻った。でも名前言いづらいな。

 ルル君と心のなかで呼んでおこう。

 アリアちゃんもルル君には少し興味有りげに返していた。


「俺は龍獣三国連合の肉食系獣人カーヴビースト族次期族長。ポチキャニスだ。ヒューマン風に言えばポチキャニス・カーヴビーストになるのか? 龍姫の姫さんの一の手下だ」

「はぁ、馬鹿な人。それだとみなさんヒューマンが家名になるでしょう? 申し訳ありません、私どもは国名と種族名が一緒であり彼も少し間違えたようです。そして私共には家名がありません、一族が持つ起源が名前の一つになります。私は草食系獣人ヒルブビースト族次期族長、羊の起源シープオリジン・ラムアリエスです。姫様の第一の手下です。なので彼は狼の起源ウルフオリジン・ポチキャニスになります。我々ビースト族は獣の起源を持って生まれその特徴が体に現れます。それは血統によって受け継がれています。血統の名、個人の名の順で言いますが、普段は個人の名前だけですね」

「おいおい、話がなげぇんだよ。もっと短くまとめろよ。それと俺が一の手下だからな」

「これだから、肉食いは……」

「あぁ!? なんかいったか、こら!」

「だから喧嘩はやめさいって言っておるであろうだわ」

「はい、姫様」

「……姫さんわざと言ってるだろ?」

「えー、私が──あいたー! くぅー」


 ギャーギャーと揉めてる二人を変な言葉遣いで止めた龍の姫様はごまかすように勢いよく立ったら、固くぶ厚い机に手をぶつけて唸っていた。その痛がりようはまるでつけているアイマスクのパンダさんが泣き顔になっているみたいにも見える。


「こほん、失礼しましただわ。私が龍獣三国連合筆頭国、リュウキュウジ国の御三家の一つであるリュウノミヤ家の次期当主リュウノミヤ・タツキですわぞ。こちら風で言えばタツキ・リュウノミヤだわです……ふうちゃんと言えた言えた」

「……言えてねーよ」


 なんか日本の名家みたいな名前だ。敬語は苦手なんだろうな、やっぱり語尾が無茶苦茶だ。


「あ、そっか。アリア様、お誘い頂いた時に初めてお目にかかりました。これからよろしくお願いするでございます」

「あ、うん。そうだね。あの国の中では君がなかなかに面白そうだったからね」

「……私は未熟者です」

「ああ、そういうのはどうでもいいから。君のその欠陥がル──」

「アリア様、それも言わなくていいです」

「あ、そうなのかい。助かるよウルリーカ」


 欠陥? 欠陥なんてあまり良い言い方じゃないけど、やっぱり目が悪いのかな? そしてアリアちゃんの台詞はまたウルリーカさんに止められていた。


「最後にこの者だな。ルカ私の隣に来い」

「えっ、は、はい」

「これの名前はルカ、この私クリストフェル = エク= ビューストレイムが後見人を務める」


 おじいちゃんが後見人を務めると言うと後ろの王族様達から少し緊張が走ったけど、それよりもアリアちゃんの次の台詞で全員がざわめいた。


「あ、僕もだよ。後見人ってやつ?」

「えっ? そうなの? 前におじいちゃんが言っていたもう一人ってアリアちゃんだったんだ」

「そうなんだよ。ふふ、どっきり第二弾だね」


 アリアちゃんの台詞にも驚いたけど、皆して僕を凝視してくるのでその視線から逃れるようにペコリと頭を下げたあとうつむき加減に顔を戻した。

 すると、紹介が終わったと思ったアリアちゃんが話しかけてきた。


「あ、もう終わったよね? どうだいルカくんこの格好」


 おじいちゃんは困った目でアリアちゃんを見るけれど注意は出来ないみたいで話を続けていた。

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