第十八話 学校と教室とクラスメイト 3

 早速僕にあてられた椅子に座ったんだけどなにこれすごい、おじいちゃんの馬車もフカフカでよかったけど比べ物にならない。低反発素材のように体を優しくしっかりと支えてくれている、しかも人間工学に基づいた形とか言われる形の椅子をしていて、僕の体にフィットしながら体全体を支えてくれている。

 今となってはどんな硬い椅子とかどんな格好でも体とか痛くはならなくなったけど、これはこれで気持ちがいい。こいつはいい仕事してますよ。


 椅子の座り心地を試していると教室の入口から話し声が聞こえてきた。


「おやぁ? 僕達が一番乗りかと思ったけれど、先を越されたみたいだねぇ」

「あら本当。残念でしたわね。兄様」

「うんうん、残念だったねぇ。妹様」


 そんな会話が聞こえ声の方を見ると、男子の制服を着た人と女子の制服を着た人が立っていた。

 二人とも金髪で金眼を持つ、気品のある雰囲気を持った二人だった、……ってさっき、壇上に立って挨拶していた人達じゃないか! 確かこの国の王族だって! 先越し罪とかで無礼討ちとかにならないよね?


 挨拶に行ったほうがいいだろうなと思い、近づいたら二人だけじゃなくてその後ろに制服を着た生徒がいっぱいいたのでビクッとした。

 近づいたら結構騒がしいのに、二人の声しか聞こえなかったのはなにか特殊な加工がしてあって防音されてるからだろう。

 この音の消え方普通じゃありえないから魔法か何かかな?

 近づいて声が聞こえてきたのはいいけれどなんか揉めてない?


「おいおい、君たち。ここまで来るのはいいけれど、もう自分たちの教室に帰るんだねぇ」

「でも、従者も付き人もなしだなんて、せめて私だけでも──」

 

 自分だけ抜け駆けしようとしていた女子生徒にブーイングが入る。「あんたがいいなら私の方がいいに決まってる」とか「子爵の娘程度が出しゃばるな」とか結構汚い言葉も飛び交っている。うわっこわっ。


「あら、さすがは兄様、おモテになって羨ましいですわ」

「だったら、俺を──」


 男子生徒の方も一人、抜け駆けしようとしていたがこちらは台詞の途中で口を抑えられて静かに連れ去られていった。

 こっちもこわっ。


 それでも僕は頑張って挨拶しようと「あの……」と、声をかけたところで後ろの人達からクレームが入った。


「ちょっとそこの平民。何を勝手にこの教室に入っているのかしら、間違っているのではなくて? ここは特別な教室ですのよ」

「そうだ、早く出ていけ。今なら見なかったことにしてやるから」


 注意はされているけどなんか微妙に優しいな。もっとこう、罵倒されるのかとも思った。

 でも、ここ僕の教室でもあるみたいだから、出ていくわけにも行かないんだよね。

 戸惑っているとなんと王子様から助け舟が来た。


「おいおい、君達。彼もここの教室で間違いないよ」

「えっ、まさかこんな平民が……いえ殿下がそう言うのなら」

「君も何か言いかけてたみたいだけど、なにか用かな?」

「挨拶をと思いまして」

「そうか……うん、挨拶は大事だからねぇ」 


 王子様が取成してくれたので僕は深く頭を下げて挨拶をした。


「はじめまして、ルカと言います。平民なので家名はありません」

「今日の式の時に聞いたかもしれないけれど、僕はエピファニオ・エクスジレリア。一応この国の王子ということになっているよ。こっちは僕の妹で──」

「エステファニア・エクスジレリアですわ。わたくしも一応この国の王女ということになりますわね」

「は、はい。式の時に聞いています。僕は王子様とか、王女様とかに対する言葉遣いがわかりませんので失礼があったら申し訳ありません」


 ごめんなさい、実は名前まではちゃんと聞いていなかったです。でもそんな事は言えずなんとかごまかした。

 あれ? 遠目じゃわからなかったけど、近くで見るとこの二人ってどっちとも魔力を練る場所が──。


「いいんだよ、僕達なんて継承権も持っていない王族だからねぇ、クラスメイトになるんだしファニオとでも読んでほしい、ねぇ妹様」

「そうですわね。私達なんて末席もいいところ王族ですわ、私もファニアと呼んでくれれば嬉しいですわ。ねぇルカ君」

「は、はい。頑張ります。ファニオ様とファニア様ですね」

「いいや、様はいらないよ」

「いいえ、様はいりませんわ」

「えっと良いのかな? じゃあファニオさん・・とファニアさんで」


 僕はファニオくんとは呼べず、さん付けするということを許してもらった。


「それにしても、彼女等が失礼をして悪かったねぇ。あの子達にも悪気はないんだ、ただ僕達を心配してくれているだけなんだよ」

「そうですわね、彼等が失礼をして悪かったですわ。あの子達にも悪気はありませんの、ただ私達を心配してくれているだけなんですの」


 さっきから双子なだけあって同じような台詞をステレオで聞かされている。ずっと聞いているとなんか不思議な感覚に陥りそうだ。


「いえ、実際に平民ですから仕方のないことですよ」

「それでも君を貴族関係者と見抜けなかったのは、おそまつすぎるといいたいけどねぇ」

「そういえばどうしてわかったんですか?」

「そりゃぁ、見ればわかることだねぇ。その制服の生地、エルフウッドだろぅ? しかも相当な……ん?」

「どうかしましたか?」


 また僕の分からない言葉が出てきたけど、取り敢えずは置いておこう。


「すまないねぇ。ちょっとよく見せてもらってもいいかなぁ」

「はぁ。どうぞ」


 そう言うとファニオさんは僕の服を間近で見る。それはもうジロジロと擬音が出そうなくらいにじっくりと、袖をつまんだり襟をつまんだりして感触を確かめていた。

 ふと何かに気付いたかのように青い顔をしてバッっと手を離した。顔色悪いけど大丈夫かな? 僕が着ている時は魔力は吸われないはずだけど。


「いや、これは……まさか──嘘だろうぅ? 僕も見たことはないけれど……ルカ君これはまさか」

「えっと、アリ──」


 脂汗まで書いていそうなファニオさんにアリアちゃんからもらったと説明しようとしたその時、後ろの集団から一人メガネを掛けた三つ編みの女子生徒が身を乗り出してきた。


「えー、そんなにすごい生地なんですかー、私も生地関しての知識には結構自身あるんですよぉ。見せてください」

「触るなっ! ……いや、ごめんよぉ。大きな声を出して。でも君の知識は今は必要じゃないんだ」

「わ、私も得意なんですっ!」


 大きな声で静止した後ハッとした顔をして、ファニオさんは謝っていた。

 でも静止されて意地になったのか、大きな声を出されて動揺したのか女子生徒さんは僕の制服に再び触ろうとしてきたけれど──


「ひっ」

「兄様は触るなとおっしゃいました」


 ファニアさんがいつの間にかレイピアみたいな剣を女子生徒さんの首筋に突きつけていた。

 えっと何この空気、別に僕の制服は好きに触ってくれてもかまわないんだけど。


「ちょ、ちょっとやめてください。僕の制服くらい、いくらでもいじっていいですから。ね? ほら、お水飲みます?」


 刃物を突きつけられた衝撃で座り込んで変な呼吸をし始めた女子生徒さんに、落ち着つくかなとコップと水を作り出し背中を撫でながらゆっくりと飲ませてあげた。


「ありがとうございます。ルカさん」

「いいんですよ。立てますか? うん、立てましたね。えらいえらい」


 つい落ち込んでる姿に僕の妹たちアリーチェとみゃーこに対するような態度で頭をなでてしまった。セクハラで出る所出られたらどうしよう。……いや、貴族の女子だからもっと悲惨なことなりかねないか? 僕。


「……はい、本当にありがとうございます。ルカ様・・・

「(様?)いえ、いいんですよ。なんか僕のせいってのもありますし」

「あの私の名前は──」


 女子生徒さんがなにか話そうとしたその時集まっている人達の後ろから、大きな声がかかる。


「道を開けられよ! 我が姫のお通りである!」


 その声で集まっていた生徒達で通れなかった廊下の真ん中が綺麗に開いた。


「……(ペコリ)」


 その開けた先には白銀の鎧を来た女性の後ろで、銀色の髪を持つ少女がお辞儀をしていた、その髪がサラサラと前に流れる。

 顔を上げるとサラサラと戻る髪の隙間から見える神秘的な銀の瞳が印象的だった。

 それを見た男子生徒も女子生徒も呆けたような表情して、間を歩く少女を見送った。


 そのまま、こちらに来たので僕は端っこに避ける。

 銀のお姫様は双子にペコリと頭を下げたあと、僕にも頭を下げてくれた。

 お姫様に頭を下げられたので、慌てて僕も頭を下げて挨拶を返す。


「おは──」

「平民! 姫に気安く声を掛けるな! 無礼であろう!」


 ──返そうとしたけど、護衛っぽい女騎士さんに大声で遮られた。

 えぇー、挨拶返そうとしただけなのにそれはひどくない?

 そして、眼の前で大声を出されるとすごくうるさい、うるさいからちょっと音を弱めるため風魔法を使った。

 そうすると目の前の女の人は目を吊り上げ更に大声を出した。弱めたから普通の音量にしか聞こえないけどね。


「貴様! 王族の前で魔法を行使するとは何事だ!」


 え? だめなの? うわっ剣を抜こうとしてる! 焦った僕は剣を抜こうとしている腕を掴み制止した。


「ご、ごめんなさい。とっさに……」

「やるな。だが、この程度で私をっ、グッ……なんだと?」


 痛くないように優しく掴んだつもりだったけど痛かったかな? でも、言葉では抵抗してるけど腕には全く力が入ってないから、最初から警告だけのつもりだったのだろう。

 実は平民で何も知らない僕に教えてくれたのかな? 貴族って面子があるからこういう言い方しかできないんだろう。


『……止めて』


 その時、後ろにいた銀髪の少女がポツリと小さな声で喋った。魔法は使いっぱなしだけど大きな音だけ弱めてるからこれは僕にも聞こえたってあれ? なんか周りのみんなも静かになっていた。

 眼の前の女性も僕が掴んだ腕以外はだらんと力を抜いていた。


『? ……あなたも、止めて』

「え? あっ、ごめんなさい。ずっと掴んでました」


 僕は慌てて手を離すと両掌を銀のお姫様に見せて、離しましたよというジェスチャーをした。

 すると目の前の少女も、口に両手をあててジェスチャーを返してくれた。いやそれびっくりしたのジェスチャーじゃない?


「おらぁてめぇら何を集まってやがる。散れ散れ!」

「ちょっと大声を出すのは止めてください。」

「うるせぇな。アイツラが群れてんのが悪いんだろ」

「うるさいのはあなたですよ」

「ふたりとも喧嘩はやめて早く行くのですわよ」

「はい、姫様」

「姫さん、言葉使いおかしいぞ」

「わんこなんかに言われた……おかしくないですわぞ」

「はぁ……わんこいうなよ」


 大声を出しながら先頭に立っていたのは身長が180cmくらいある灰色で犬耳と尻尾を付けた男性と、髪の毛が真っ白なもこもこで羊のような巻いた角と垂れ下がった尻尾を持つけど何より羊や山羊のような四角い瞳孔が特徴的な、えっと、グラマラスな女性と、その女性に手を引かれている黒髪に後頭部から額あたりまで頭を沿うように生える角、棘の生えた身体の3分の2はありそうな尻尾が手を引く女性の肩に乗っている。この三人もさっき壇上で見た人達だ。

 さっきも見たけど真っ黒い革のような素材でできてレースのような細かい刺繍がしてあったアイマスク──ってちがう、さっきのアイマスクとは変わってる。パンダさんみたいなアイマスクだ。


 僕の横を通るとき竜の少女だけペコリと挨拶をしてくれたので挨拶を返す。あ、先程怒鳴られたからって何も言わず頭だけ下げちゃった。見えてないよね。

 でも、握られてない掌を僕に向けて軽く振られたので実は見えてるのかなと思ったけど、その手をドアの端にぶつけて「あいたー」と痛がっていたのでやっぱり見えてないのかな?


 その後も次々とクラスメイトはやってきた。


「みんなはやいっちゃね」と青い髪の青いくりくり眼でギザギザの歯を持つ少し特徴的な喋り方をするマーマルズの女の子。

「なんじゃい、魚より遅れたか」と背は低いけど体は分厚く立派な髭を持つ多分ドワーフの男性。

「フッ、ここが我が盟友たちが集いし運命の場所か」なんか僕の黒い歴史を刺激しそうな喋り方をする肌の青い男性。


 あれー全員、さっき入学式で見た各種族のお偉いさんばっかりだぞー。あれれーおかしいなー。


 いや本当におかしいでしょ!

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