第十六話 学校と教室とクラスメイト 1

 そしてあれよあれよと時間は進み入学式当日になった。

 試験? 結局勉強したところからしか出なかったし、後は生活魔法を見せたら終わったよ。


 父さんも母さんもおじいちゃんに買ってくれた礼服に着替えて少ない保護者の参加者の中に並んでいた。僕が言うのも何だけど二人共見違えるようだった。

 アリーチェは制服を着たがってはいたけど、流石に学校に来ていくのはまずいため子供用ドレスだ。

 かなり駄々こねられたけど、なんとか納得してくれた。アリーチェはどんな格好でも変わらず最高に可愛いから僕はなんだって良いんだけどね。


 クラスで分かれて並ぶとかはなくて、貴族と平民で分かれて並んでいるみたいだ。並び順はもちろん貴族の人達が前で用意されている椅子に座って、平民はその後ろに少し離れて立って並んでいる。割合的に言えば僕達平民のほうがぱっと見だけど三倍位多いのかな?

 僕もレナエルちゃんとアダン君の間で一緒に並んでるんだけど、僕の制服だけなんかちょっと豪華というか細部まで細かいというか周りから浮いちゃってる感じがする。


 そんな事を考えていたら、目線を感じたので周りを見渡すと顔を赤くしてこちらを見ていた一人の男子生徒と目が合った、男子生徒はハッと気付いたように顔を伏せられて視線をそらされる。あれ? と、思って更に周りを見回すと同じような顔をした男子生徒が次々と顔を伏せていく。

 え? なに? 入学式から僕いじめにあってるの?


「こらルカ。キョロキョロしないの」

「レナエルちゃん、僕と目があったらそらされるんだけど? いじめかな?」


 レナエルちゃんに小声で注意されたから僕も小声で返す。


「あのね、そんな制服着ているから、あんたも貴族様だって思われてるのよ。見られるのもそらされるのも仕方ないでしょ、自覚しなさいよ」


「……男共はレナエルちゃん見てて、目が合うことになった思うんだけどレナエルちゃんも自覚したほうが……」


 アダン君がボソボソと言っているが、たぶんレナエルちゃんには聞こえていない。

 確かに、前にいる男子生徒も顔だけでこっちをチラチラと見てたもんね。貴族と思われている僕が隣にいると分かっていても、つい見ちゃうくらいなのか。まあ確かに──


「レナエルちゃん美人さんだもんね」

「えっ!──」


 レナエルちゃんが驚いたように声を上げそうになったけど、式の最中なので慌てて自分で口を抑えていた。

 そして赤くなって僕に文句を言ってきた、もちろん小声で。


「あんたこんなところで何言ってるのよ」 

「えーだって(男子生徒が見てたのは)そうだよね? アダン君」

「お、おう。……レナエルちゃんがその……な? あれだからだと思う」


 アダン君も真っ赤になって俯いっちゃった。


 

 しばらくしたらおじいちゃんが壇上に現れる。

 ざわざわとしていたけどおじいちゃんが手を挙げるだけでシーンと静まり返った。


「まずは我がビューストレイム総合学校に入学おめでとうと言わせてもらおう。」


 そこからおじいちゃんの挨拶と学校ができた経緯や


「特別に各大陸からの代表として我が校に入学していただけることになった方々を私の方から紹介させてもらう」

「まずは我がエクスジレリア王国──」


 そう言って壇上に現れる人達がいた。

 最初に男女の双子で金髪金眼の中性的でまさに王子様って感じでそれとそっくりな王女様が上がってきた。

 次に銀髪銀目のお淑やかそうな隣国のお姫様。

 クリクリの眼で愛嬌のある顔をしている歯がギザギザな裁縫師のエークさんと同じ種族でマーマルズの女性。

 ちょっと前に話には出ていた見た目がテンプレそのまんまのドワーフの男性。


 青い肌を持った紫色の眼をした男性。

 灰色の髪とそして犬のような耳、尻尾を持った男性。

 白い巻き毛で羊のような耳と巻き角、垂れ下がった尻尾で特徴的な目を持った女性。

 これまでアニメでしか見たことのない竜のような角とこれまた竜のような尻尾、そしてものすごい繊細な刺繍が入った黒いアイマスクで目を隠した黒髪の女性。

 ドワーフさん以降は知らない種族の人達が現れて、合計九人がおじいちゃんの前にずらりと並んだ。


 これがこの世界の七つある大陸の主となる人の種族で、更にこの人達はその種族の代表の子供達らしい。つまり全員が超VIPってわけだ。

 でも、僕は今ちょっと驚いている。たしかに目の前に立つ人達はものすごく顔が整っている人達ばかりだ。──ごめん、ドワーフさんはそうでもなかった。いや、そんなことよりもだ。

 そんな超VIPな人達よりもレナエルちゃんの方が美人さんじゃない? 僕の感性おかしくないよね? うーん、ちょっとアダン君に聞いて確かめてみるか。

 他の人達も壇上に並ぶ人達に驚いて結構ざわざわしているけど、一応小声でね。


「ねえねえ、アダン君」

「なんだ?」

「あのさ、前にいる人達って綺麗だよね」

「ああ、さすがは王族様達って感じだな。それがどうしたんだ? ははっ、一目惚れでもしちまったか?」

「はぁ? ちょっとルカそれ本当なの?」


 アダン君と話してたらレナエルちゃんが話に割り込んできた。何故か僕が、一目惚れしたということになりそうになっているし。


「い、いや。そうじゃなくってさ、あんなにさ世界中の美男美女集めましたって感じなのにさ」

「さっきから何が聞きたいんだよ。はっきり言えよ」

「あ、ごめんね。僕はレナエルちゃんの方が美人さんだと思うんだけど、アダン君どう思う?」

「ふぇ!?」

「お、おい。お前いきなり何言い出すんだよ。お前ボケーっとした顔しときながら、やっぱりレナエルちゃん狙ってやがったな」

「レナエルちゃんを狙う? いや、ただ事実確認をしたかったんだけど。村にいた時はレナエルちゃんって顔整ってるけど、やっぱり外にはもっと綺麗な人いるのかな? って思ってたけど、これだけ人の多い中でもレナエルちゃんが一番美人さんだって思ってさ」

「お、俺だって、村の奴らしか知らねぇよ。でもよ、た、確かにレナエルちゃんが……い、いちばん……び、び……だ、だめだ。恥ずかしくて、言えねぇ」


 恥ずかしいならイエスかノーで答えてくれればよかったんだけど、この反応から見てやっぱり僕の感性、間違ってなかったね。良かった良かった。

 やっぱりレナエルちゃんが美人さんだと確認できて納得していたら、レナエルちゃんから制服の袖をクイクイと引っ張られた。うわっ、レナエルちゃん顔真っ赤だよ?


「ル、ルカ。あんた、私のことそんな風に思っててくれたの?」

「うん、そうだけど?」

「じゃ、じゃあ。今までルカは私の顔が好きってずっと──」

「いや? 別にそんなことは思ったことないけど?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 そりゃ、僕だって一般常識として顔が整っている方が好きだっていう人が多いってのは分かるよ。でも、僕は人の顔だけで好き嫌いを感じたことなんて、生まれる前も生まれてからもただの一度も無い。

 多分こうなったのは前世のせいだと思う、子供の頃から隣の悪魔だったあいつの気持ち悪さを感じていたせいで、美人だとかイケメンだとかで判断するのを除外するようになったんだと思う。

 あれは顔も体も異様に整っていたけど、僕は嫌悪感しか感じなかったからね。


「……じゃ、じゃあ、私……な、なんとも思ってないの?」

「何で? レナエルちゃんのこと好きだよ?」

「えっ?」

「えっ?」


 なんかレナエルちゃん泣きそうにな声になってたからよく聞き取れなかったけど、レナエルちゃんのことは好きに決まってるじゃないか。

 だって、アリーチェもレナエルちゃんに懐いているし、お姉ちゃん呼びまでしてるんだよ。ちゃんと家族の一員として好きに決まってる。


「──わ、私も」


 そう言うと、レナエルちゃんは僕の手をギュッと握ってきた。うんうん、アリーチェにも好きって言ったら同じようなことをよくしてくるよね。

 僕はアリーチェにするみたいに手を握り返して反対の手で手の甲を優しくポンポンと叩く。こうするとアリーチェはいつもニッコリと──ズシャァ! 

 えっ? ズシャァ? ──って、ア、アダン君が倒れた! おじいちゃんの話が長すぎたから立ちくらみでもしたの!? アダン君はまるでひどいショックを受けたような表情で倒れている。

 

 慌てた僕は、保健室のベッドまで連れて行くために、アダン君をお姫様抱っこして講堂を抜け出した。

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