第二十六話 趣味に早口に語る
「僕が来たのはね、ルカくんが創った魔力の珠を見せてもらいたい、できるなら譲ってもらいたいからだったんだ」
あれから一応、落ち着きみんなで席についたところで──僕を抱っこしたシスターが、そのまま僕を膝に乗せて座ろうとしたけど、居心地が悪くなりそうなので脱出した──アリアちゃんが切り出した。
僕はアリーチェに渡したものを、譲ってくれと言っているのかと思い、ジト目になって、アリアちゃんをじっと見たけれど、そうではなかったらしく焦ったように説明をしだした。
「ち、ちがうよ。あの幼子のものを譲ってくれというんじゃないんだ。ほ、ほら、ウルリーカも説明しておくれよ」
なんとなくだけど、名残惜しそうに僕を見ていたシスターがハッとしたように、アリアちゃんを見返して、アリアちゃんの話の補足をしてくれた。
「えっとですね。この前の休養日のときに神父様とトシュテンさんのお家に水晶玉みたいなのを持っていったじゃないですか? エドワードさんもいらっしゃいましたから見られたと思いますけど、どうもアリア様はあれが欲しいらしく、ついついこの村まで転移してきてしまったそうなんです」
「ああ! あれか! 神父様から村の外れで見つかったと聞いたときには、なんであんな水晶玉がいきなり出てきたんだと、トシュテン達と不思議に思ったんだが……いや、まてよ、今までの話の流れからして犯人は…………」
父さんが合点がいったように納得したような台詞のあとに、この騒動の原因がわかったとばかりにじろりと父さんが僕を睨んできたので、つい目をそらせてしまった。
あのとき村の誰かが持ってきたときには、全く記憶になかったんだけど、アリーチェにビー玉を創っている最中にふと、頭によぎったのがその水晶玉で、なんとなくだけど僕が創ったんだろうなというのも、今となっては、わかってしまっていて、気まずく感じたからだ。
「い、いや。あのね父さん。別に内緒にしてたわけじゃなくて、教会にいたときはわからなかったというか、記憶になかったというか……」
「本当か?…………ああ、本当なんだろうな」
父さんと母さんが揃って顔をしかめているけど、少し悲しそうな感じなのはなんでなんだろう。
「すまない、見せてやるのはできるんだが、譲るとなると辺境伯様の許可がいる。もう報告も済ませてしまっているしな」
父さんが言うには、いくら僕が創ったとはいえ、一度村で発見されたものとして報告してしまっては、好き勝手には出来ないということらしい。
「しかし、なんだってアリア様はわざわざ転移までして、あんな水晶珠がほしいんだ?シスターが言うにはなんの力も感じないということらしいが」
父さんのその言葉にシスターもうなずいていたけど
「しかし、私程度が調べただけです。アリア様にはわかる特殊な力があるのでしょう」
と、追加したけれども、アリアちゃんはあっさり否定した。
「いや、ここに来た時にウルリーカにも言ったけど、あの形状ならなんの力も持たないよ?」
「だったらなぜ、欲しがるんだ? なんの価値もないんだろ?」
「何を言ってるんだい! 力がないからと言って価値がないというのは大間違いだよ! 僕にとってはあれこそが人が作り出す至高の逸品だよ!」
父さんの価値がないという言葉は、アリアちゃんの心外なことだったらしく、我慢できないとばかりに堰を切ったように早口で語りだした。
「いいかい? 君たちがただの水晶球と言っているあれは魔力そのものを魔法で物質に変換したのものであって出来上がったものはよく調べると生み出した人間によって一人一人で構造がまるで違うようになっているんだ。かつての勇者達はルカくんみたいに創造魔法を使って作りあげたのではなくスキルを使って魔力の物質変換を行い彼らが聖剣と呼ぶものを創っていたけれどもその構造も一人一人が違っていたんだ譲ってもらったりして何度も見せてもらったけれども聖剣を深く走査すると魔力の構造がよくわかってその流れや構成がとても美しいんだまるでその人の全てを固めようだったね僕はそいつを見ているだけで季節が何度も過ぎ去ったものさ!残念ながら創造魔法とは違いスキルで創ったものは現出できる期間が決まっているから今ではすべて世界に帰ってしまって一本も残っていない!本当に残念だったよその一本一本が消えるたびに僕は涙を流したものさ!最後の聖剣がなくなってもう何百回季節が巡ったことかわからないよそこで今回のルカくんのことだ僕もまさかこの平和な時代に魔力物質を創り出せる人間が現れるとは思わなかったそれは世界の淀みや僕たちハイエルフみたいな精霊種に属するものにとって切り札になるものだから人間にとっては種族として追い詰められたときや運命に逆らうときにしか出てこないものだからねそれを形は違うとはいえ創造魔法で作り出すなんて本当に素晴らしい創造魔法で出来た魔力物質ならば破壊されるまで消えることはないだろう?ということは僕は永遠に魔力構造の芸術を見ることができる永遠にだそれはもう一度言うけど僕にとっては本当に素晴らしいことなんだよ聖剣としてじゃなくて良いのかって?もちろんいいさ!僕は聖剣としてではなくその人が作り出す
ものすごい早口で何言ってるのかほとんど聞き取れなかったけどようやく止まった──と、思ったらものすごい冷や汗をかきながらうめき出した。
アリアちゃんの魔力が掌から生み出され、それに伴い幅の広い木刀のようなものを創り出した。
なんでいきなり創り出したかは、よくわからなかったけどアリアちゃんの様子から、ものすごい力を使って創り出したのはわかった。
「ほら、僕だってこんなに消耗してしまう。あ、これはお詫びとして受け取って欲しい、それで魔力の物質化とは創造魔法の中でも特殊な一つで──」
「ま、待ってくださいアリア様!」
アリアちゃんがまた語りだしそうになったところで、シスターが焦って止めた。
「あの、わかりましたから。言っている意味はさっぱりでしたが、アリア様の情熱はわかりました。ですが、私を含めておそらくここにいる全員が、アリア様のおっしゃってることが、何一つとしてわからないのです」
シスターがみんなを示すように腕を広げたので、僕も父さんと母さんの顔を見たら、やはりポカンとしていた。
父さんは渡された木剣を持っていたけど、それをどうして良いのかもわからなのも含まれてるっぽい。
「そうか……、すまないね。語り始めるとついつい止まらなくなっちゃうんだ」
「それはよくわかったけどよ、こいつはどうしたら良い?」
アリアちゃんがすごく寂しそうにしていたけど、父さんは渡された木剣が気になるようだった。
「ああ、さっきも言ったけどお詫びとして受け取って欲しいな。折ってしまった剣よりは良いものだとは思うよ。……あっ、すまない。なにか思い出の品だったりするのかい? だったらそれじゃお詫びにならないな」
「いや、ただの数打ちの剣でそこまでのもんじゃない。本当にもらって良いものかと思ったんでな」
「ああ、代わりになるのなら良かった」
「ではありがたく頂いて使わせてもらう。──悪いが、アリア様が欲しがってるものは、もうじき親父が辺境伯様の使いとして、この村へ来るから、その時に交渉して欲しい。親父から許可が出れば辺境伯様も問題はないはずだ」
へぇ、おじいちゃんて偉いとは聞いていたけど、そこまで権限あるんだ。まさか貴族とかじゃないよね?
……だったら、父さんも貴族? ぷぷっ、似合わないな!
って、頭の中だけで考えていたら父さんからげんこつが落とされた! 痛い!
「お前が馬鹿なことを考えてるときは、すぐに顔に出るんだよ」
僕の頭が犠牲になりつつも、アリアちゃんとの話も終わったらしく、ようやくお開きとなった。
ちなみにアリアちゃんはおじいちゃんが来るまで、この村に滞在するらしい。一度帰ると僕たちとの時間間隔をあわせられないということだ。
僕が知ったのは大分あとになったけど、シスターがアリアちゃんを教会に連れ帰ったあと、神父様が腰を抜かしたという出来事もあった。
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