第二十五話 興奮で仲直りで友達
何故か現れたシスターが父さんに問いかけていた。
「エドワードさん!いったい私が来るまでの間に何が……」
「……ああ、このエルフがいきなり現れてだな──」
父さんが今までの経緯を説明して、シスターがため息を付きながら複雑な顔をしてた。
「この御方に悪気はなかったはずです。どうか、私の顔に免じて今回だけは……」
「……シスターに言われたら、俺達は……少なくとも俺とソニアは許すしかねぇよ。ルカももう良いだろ、そいつはちゃんと反省はしているみたいだしな」
「父さんがそう言うなら、僕も良いよ」
良いどころか助かった。少女を土下座までさせていたら、ないとは思いたいけどアリーチェに怖い兄さんだとか思われたりしたら。立ち直れないからね。
あと、冷静になってきたらちょっとやりすぎたかなとも思う。
相手が手を出さないことを分かっていた上で、正座させて正論かまして説教たれるなんて、コンビニとかで店員さんに説教するおっさんと変わらないじゃないか。
土下座までさせたらSNS炎上間違いなしだったよ。ここにインターネットなんてないけど。
「やあ、遅かったねウルリーカ」
「申し訳ありません。アリア様が急に転移なさるので……。これでも急いできたのですが、騒ぎにならないよう、神父様や村人の方達見つからないよう、隠れてきましたので」
「そうなのかい? ふふ、迷惑をかけたね」
「アリア様? 」
「人ってのはやっぱりすごいね。力じゃ敵わないならすぐに別の方法をとってくる。久しぶりに僕は打ち負かされた気分だったよ」
「なかなか、いい体験だった」と、実は反省してないのか? と思ったけれど、ちょっと目がトロンとしてて、怖かったからスルーした。
◇◇◇◇
「それで説明はしてくれるのか?」
「ええ、私もいきなりだったので、分かることだけになりますが、それでもよろしいですか?」
「シスターのところにも、そのエルフが急に現れたのか?」
「急に来られたのはそうですね、ただ……落ち着いて聞いてくださいね?」
シスターは神妙そうな顔をして続けた。
「この御方はエルフではなく、ハイエルフ様です」
僕は「へえ、ハイエルフってこんなんなんだ」としか思わなかったが、両親の反応は全く違っていた。母さんは真っ青に顔色を変えるし、父さんは持っていた剣を取り落とすほど狼狽した。
アリーチェは泣きつかれてお眠だったので一足先に母さんのベットで寝ている。
ビー玉を持ったままだけど、それをアリーチェに創ろうとしたときに、口に入らない大きさに創らないと、と思ったおかげで大きめにできたから、飲み込みとかはしないだろう。
「ハイエルフだと……いや、ハイエルフ様ですか」
父さんのうめき声みたいな台詞とともに、父さんが膝を着き、頭を垂れた。
母さんは慌てて僕を隣まで引っ張り、父さんと同じような体勢をとって、「ルカあなたも」と、促してきたので、素直に従い膝をつこうとしたところで、実はハイエルフだった少女に止められた。
「いやいや、立っておくれよ、ただでさえ僕が悪かったのにそんなことまでさせたら、ただの最低野郎じゃないか」
「しかし、ハイエルフ様となると、我らが国王でさえ玉座を降り礼を尽くすと聞きます」
王様!? ハイエルフってそんなに偉いの?
ぼくは、目の前の少女が王様に匹敵するほどの権力があるということと、あの罪悪感で自縄自縛になって正座までした少女がうまく重ならなかった。
「たしかにそれはそうなんだけど……いや、そうじゃなくてだね。──そうだ、ルカくん!僕は君の友達になりたい、ただのアリアだ」
「──アリアちゃん」
「くっ、そ、そうだ。ただのアリアちゃんだ。そこのエルフの森からちょっと、好奇心で出てきただけの幼いエルフだと思ってくれ」
つい口からポロッと出てきてしまった、ちゃん付けにはまだ恥ずかしいのか、顔を赤らめていたが、どうもこの状況に居心地が悪いのか、諦めてちゃん付けも同意してきた。
「しかし、ですね」と、渋る父さんにアリアちゃんはシスターに助けを求めていた。
「たのむよ、ウルリーカからも言っておくれ」
「わ、私ですか!? しかし私もアリア様のことは何一つとして分からないのですが……」
「頼むよ!同族だろう?」
同族という言葉でシスターが身震いをおこした。顔を見ると感動したような、感極まるような表情をしたので、その言葉がシスターの心に突き刺さったのは分かるけど同族?シスターもハイエルフだった?シスターの耳は丸いけど目の色と髪の色は少しだけ似ている。
「シスターもハイエルフだったのですか?」
僕の台詞にハッとしたようにこちらを見て、諦めたようにため息を付いた。
「いいえ、私はエルフでもハイエルフ様でもありません。エルフと人の子、ハーフエルフです。──エルフ族の噂のことは知っているとは思いますが、お願いですから怖がらないでください」
噂? しらないけど? でも、ハーフエルフって物語では、どちらからも嫌われているってのが定番だよね。見た感じそんなふうではないな。
まあそれは良いとして僕がシスターを怖がる理由なんて一つもない。
そう言えばあまり意識しなかったけど、思い起こせばシスターにはいつも優しくしてもらっていた。
「もちろんだよ、シスター。僕がシスターを怖がることなんてありえないよ」
「ルカくん!」
僕にしたら当たり前の言葉だったけど、それが嬉しかったのか。僕はシスターに抱き上げられ子供みたいに抱っこをされた。いや子供なんだけど普通の十歳並みには重いよ? シスターの細腕で軽々と持ち上げるのはすごいね。
でもちょっと恥ずかしいかな。
「ウルリーカ、僕が友達になりに来たということに説得してくれと言っているのに、君だけ先にルカくんと仲良くするのはちょっとずるいんじゃないかい?」
「あ、すみませんアリア様、今、色々な感情が一気にきて、少しばかり興奮をしてしまいました」
それでもシスターは、抱き上げている僕を離すつもりは無いようで、しっかりと抱っこされたままだった。
「ほら、僕なんてこの程度だよ。僕に確かに力はある。でも、それを振りかざすつもりも、実際に振るうつもりもないから。ルカくんと友達になりに来たということして、納得してくれないかい?」
「わかりました。──いや、分かった、俺達はそれでいい。ルカはどうだ?」
「僕はもう大丈夫だよ。アリアちゃんが悪い人じゃないって分かったし、──よく考えてみれば、なにかに夢中になりすぎて他のことが見えなくなることって、確かにあるよね」
「ああそれか! アリア様の行動になにか既視感を感じると思ったら、ルカお前に似てるんだな、馬鹿なことをして反省する様なんてよく似てやがる」
「ま、お前は反省するどころか気付かないこともあるがな」と、父さんはようやく気が抜けたのか、母さんとともに立ち上がって、いつものように笑い声を上げた。
あれ?やぶ蛇だった? でも、僕そこまでじゃないよね? ──たぶん、そうだと思いたい。
それとシスター? 鼻息が荒くて、くすぐったいんだけど?
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