第二十一話 心の魔法の一歩

 いつものようにお風呂が終わり、いつものようにアリーチェから先に乾かしてあげて、いつものように抱っこしたがる父さんを避けて、母さんにアリーチェをあずけて、いつものように先に寝ようとした。


 だけど最近、魔法で出来ることが増えて、楽しくなってきてせいか、早く寝るのがもったいなくなってきた。いつもの習慣だったけど、部屋に行くのやめて足を止める。


「ルカ? どうしたの?」

「母さんあのさ、母さん達ってどのくらいまで起きてるの?」


 僕がこんなことを聞くのは初めてだったと思うから、いきなり質問された母さんは驚いていた。


「え、ええ、そうね。私達はそのランプが消える頃にいつも寝てるわね。アリーチェも最近はお目々ぱっちりなんだけど、誰のせいかしらね? 」

「ねー!」


 ごめんよ母さん、そしてアリーチェ、僕もアリーチェも褒められてないから嬉しそうにしてら駄目だよ。

 それはともかく、母さんが指をさす方向に、火の生活魔法で明かりを灯しているランプがあった。

 近くによってよく見て、この魔力量だったらおそらく三時間ほどで火が消えるかな? とわかる。

 火魔法は魔力を薪として燃えるので、込められた魔力量で時間が変わる。


 この村は詳細な時間がない、あんまり気にしたことはなかったけど、そこは不便だな。

 だいたい込めた魔力で消える時間は分かるから、目安にはしてるみたいだけど。


「あのさ、僕もランプが消えるまで、起きていてもいいかな?」

「ルカ──あなた、大丈夫なの?」

「明日のこと? うん、最近はほら、あんまり早く出てないし、アリーチェもだけど、──父さんと母さんとも話もっとしたくなったんだけど、やっぱり、駄目かな? 」


 不安そうな顔をしてる母さんを見て、やっぱりまずかったかなと思ったけど、今まで黙って聞いていた父さんが大声で笑い出した。

 笑いが止まらないらしく、涙が出るくらい笑った後に父さんが僕に向かって言った。


「あー、あんまり、お前がバカバカしいこと言うから、笑いすぎて涙出てきたじゃねーか」

「ご、ごめん父さん、やっぱり僕」


 寝るねと、続けて言おうとしたけど、父さんが頭をなでてきたので、それも止まった。


「だからバカバカしいこと言うなよ。なんで家族団らんに許可がいるんだよ。お前はただ座って、話したいこと話せばいいだろ、な? ソニアそうだろう?」

「ええ、ええ。そうよエドワード、あなたが正しいわ。こっちにいらっしゃい、ルカ」


 家族団らんに許可はいらない、当たり前じゃないか。僕はなんて馬鹿なことを聞くんだ。そりゃ父さんに泣くほど笑われるよ。

 僕が気まずそうな顔をしているのを見て、父さんが僕を荷物みたいに横抱きにして持ち運び、母さんの横に座らせた。

 その後素早くアリーチェが僕の膝に座ってきたので、みんなで一緒に笑った。アリーチェはキョトンとしてたけどね。


  ◇◇◇◇


 父さんが引っ込んでゴソゴソしていたと思ったら、コップと小樽を持ってきた。コップは木製のジョッキで小樽の中身は、前にも飲んでいたエールかな?


「父さん今から飲むの?」

「おう、せっかくだからな!」


 何がせっかくはわからないけど飲むらしい。


「中身はなんなの?エール?」

「いや、これは魔力草で作った酒だ。おっと、こっそり作ったとかじゃないぞ。辺境伯様からちゃんと許可が出て、少量だけ作ってるやつだ」

「へー、魔力草ってお酒にもなるんだ」

「ああ、こいつは魔味にあふれてて、普通の酒とは一味違う」

「魔味? なにそれ?」

「ああ、お前もフォレストウルフ食ったときに、他の肉よりうまく感じただろ? あれは魔力が関係あるらしく、その独特の旨さのことを魔味と言う──らしいぞ、実は俺もよくしらん。味が違うのは分かるんだけどな」


 父さんが笑いながら教えてくれた、確かにフォレストウルフは美味しかった。なるほど、この世界には魔力があり、生きるために必要なものだ。

 それがあるから舌も敏感に魔力を感じ取り、旨味として受け取っているのかな?

 父さんを見てみると、大きなジョッキに少しだけついでチビチビやっている。あれくらいの量だったら、前世で日本酒飲むときとかに使う、徳利とお猪口みたいなのあれば、飲みやすいのにと思った。


 思っただけだった。──けど、目の前にカツンという音ともに、先程まで思い浮かべていた形の徳利とお猪口が、現れていた。


「あ、あれ?」

「お、何だルカ。魔術で作ってくれたのか? これで酒のめってか?」


 僕の戸惑いを気にせず、父さんはそれを嬉しそうに手にとって、見回していた。

 いや、僕は魔術は使えない事がわかったし、魔術うんぬんは関係なく、僕は今、生活魔法も使った意識がなかった。

 僕の魔力で作ったのは見れば分かるんだけど、完全に無意識で使用していた。


 今までどんなに頑張っても、複雑な形なんて作れなかったのに、今のはイメージしたものがそのまま、頭の中から出てきたみたいに繊細で、自然な魔法だった。

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