第二十二話 徳利とお猪口とビー玉
「見たことないような形と、これはガラスで出来てるのか? 凸凹としてあんまり透明じゃないガラスだが、なんか味があるな、魔術ってのはこんなことまで出来るんだな」
父さんが僕が作ったガラスの徳利とお猪口──魔力草のお酒が綺麗な緑色だったから、ガラスだと透き通ってきれいに見えると思っていた──を、軽く指で弾いて硬質の音を聞きながら、そんな事を言った。
「魔術で出来てるなら、何時まで持つんだ? たしか、こういった破壊力を持たせないものは、少しは長持ちするんだっけか?」
いや、多分魔術じゃないとは思うんだけど、無意識で作り出したから、僕にもはっきりとした自信がない、時間が経てば消えるか消えないかで分かるんだろうけど、父さんが言う魔術の長持ち時間がわからない。
「あら、私の分まであるのね。ありがとう、ルカ」
僕が使ってるのは魔術じゃないかもと、父さんに説明しようとした所で、母さんがそんな台詞言ったので僕の動きが止まった。確かに夫婦で飲むなら、お猪口は二つだよなと思っていたから、二個あっても不思議じゃない──勝手に出てきたのは不思議だけど。
いや、そこが問題じゃないんだ、僕はこわごわと膝の温もりの持ち主に目をやった。
「……にいたん、あーちぇのは?」
やっぱり! 自分の分がないと分かったアーチェは、すでに泣きそうになっている。
父さんも母さんも作ってやれと僕をにこやかに見てくる。
僕は慌てて、同じものでもいいから作り出そうと生活魔法で、なんとか創ろうとしてもやっぱり今まで通り、複雑なものなんて作れないし、ましてやガラス製なんてどうやるんだ?
何故、出来たかもさっぱりわからない。スキル覚えたのなら、急に理解して出来るようになるって、神父様も言ってたじゃないか、全く理解できてないんだけど。
でも、生活魔法に関しては新しいことが出来たときも全部、全部僕がちゃんと制御するか、自動化でも僕の脳内の領域を使って処理してるだけで、自己強化みたく切り替わったように理解できて自然に、しかも、簡単にできるようになんてならなかった。
いや、簡単に作ったように自然に出てきたのは、さっきも一緒だけど。作り方が理解できない。
「……ふ、ふえ」
やばい! もうアリーチェの涙がこぼれそうになって、感情が爆発しそうになってる。あ、あわわ、あわてるな。まだあわてるような時間じゃない。ガラスは無理だとしても土魔法に水魔法突っ込んで、粘土作って、火魔法で焼いて陶器みたいな物作れば……火は燃え移ると危ないから、風魔法で覆って隠蔽の応用で周りに魔力の真空状態を作り出して、なんとかならないか?気に入らなかったら父さんのガラスと交換したら良い。あ、いや、そんなことに掛ける時間はもうない、あわてる時間じゃないか!
ああ、アリーチェ、な、泣いちゃう、泣いちゃう!!
──この時の僕はそれはもう混乱極みだった。そりゃあ、そんな意図は全く無かったとしても、僕自身がアリーチェを除者してしまって、そのアリーチェが目の前で悲しそうにしているのだ。パニックに陥らないほうがおかしい。
混乱する頭と感情に任せたまま、なにか作ろうと魔力を放出しちゃってたけれども、僕の目の前に完全隠蔽により球状に閉じ込められている自分の高密度の魔力を見て、少し前にこんなことをした気が、と、頭をよぎった。
たしか、こう、とにかく何も発動させることは考えもせず、魔力を圧縮したような気がする。
そうだ、たしかこうだった。
目の前の魔力が一点に集まり始め、高密度だった魔力さらに密度を高めていった。
そうだもっと集めて、あれを作ってやればいい、そうすればアリーチェを泣かさないですむ未来が訪れると、なんとなくだけど理解できた。
圧縮によって荒れ狂う魔力だけど、安定するように制御し、さらに圧縮していくとある一定から変化が訪れた。抵抗もなく一点に秩序を持って集まるようになってきてくれた。
そうして、圧縮した魔力が臨界を超え、中心からピンポン玉サイズの赤、青、黄色、緑の、星が散りばめられたようなビー玉が出来た。
よし! なんかよくわかなんないけど、とにかくよし。
これがさっきとは違うガラスの作り方だったと思うことにした。
だってほらアリーチェが目をキラキラさせながらビー玉を見ている。
先程とも、生活魔法からなにか作るときとも、大分感覚が違っていたけれども、アリーチェが泣いちゃうことは抑えられたんだ。それでいいじゃないか。
出来上がったものを手に取り、触って見てみても、ただのガラス玉みたいで、これ自体から危険な感じとかは何も感じない。
ただの──いや、自分で作っといて自画自賛かもしれないけど、神秘的な宇宙を思わせる、最高に美しいのビー玉だ。
自分の分が出来たと、お目々キラキラのアリーチェに渡そうとしたら、横合いから掻っ攫われた。
父さんが危ないと取ったのか思って、取られた方向を見ると、緑髪で緑色の目をした、僕と同じくらいだろうと思われる、耳の尖った少女がニコニコしながら僕のビー玉を持って立っていた。
「いやー、これは、すばら──」
「だれだ! てめぇ!!」
いきなり現れた少女がみんながポカンとする中、何か言おうとしてるのを父さんが遮って叫び、アリーチェを抱いた僕と母さんの前に飛び込んで、いつの間にか持っている剣を構えていた。
──そして、ビー玉を横取りされたアリーチェは、僕の耳がおかしくなるくらい火がついたように泣き出してしまった。
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