第二十話 連絡と予兆と魔物

「ルカすまねぇ、トシュテンが来た。俺に用事みたいだからよ、少し抜けるぞ」

「分かったよ父さん」


 父さんの顔の向いた方を見ると確かにトシュテンさんが近づいてきている。結構近くまで来てるのに全然気付かずに少しびっくりする。

 鍬を置いてトシュテンさんに歩み寄る父さんを端目に開拓作業を続ける。

 僕の片耳では練習のため、ネットで聞いた某竜探求1のBGMを思い出しながら小さく鳴らしている。風魔法をブロック状にして音ブロックを作ったわけだけど、さらにそれを風魔法で覆う事により、完全な音の遮断に成功した。それを耳元に当てていれば擬似的なヘッドホンの出来上がりだ。

 外の音は通して、内の音は通さないことも出来たので、外の音が聞こえず危ないとかいうのも、クリアできた。

 

 アリーチェにピコピコ音のBGMを聞かせるのは実はまだしていない。

 最初このビープー音みたいな音に慣れさせよと、白い鍵盤だけをイメージして、白い長めの板を8枚用意して横に並べた。


 そして音ブロックも8つ用意してドレミの順で作った。このまま鍵盤を押しても、ただピアノみたいに動いて戻るだけで音はならない。

 鍵盤を押したときに、僕が音ブロックを操作して音を鳴らしている。

 鍵盤は飾りにしか過ぎないけど、それに連動してなってるように見せかけ、押して鳴る、という感覚も楽しんでもらおうと思ったからだ。


 結果、大成功だった。──いや、大成功過ぎた。

 最初は僕がアリーチェの右手の人差し指を持って、ドから順に押させて鍵盤を押せば、音が出るということを教えてあげた。その後、初めての楽器では前世ではみんながよくやっていた、きらきら星をそのままアリーチェの指を使って演奏した。


 そうしてアリーチェの指を離して、好きに押して良いよというと、最初はこわごわと押して音を出していた。


 だけど、そこからがすごかった。慣れてきたアリーチェは音階とかは全く気にせずにデタラメに押し始めて、右手の人差し指だけだったのが、左手の人差し指を増やして押していき、その指も十本全部使って鳴らすようになった。


 音を小さくしていたからと言って、これだけ適当に鳴らしまくれば絶対に迷惑だと思って、風魔法でさらに覆ったのが音の遮断方法を手に入れた第一歩だった。


 音の遮断はとりあえず出来たんだけど、アリーチェが適当に鳴らすのに僕がそれを見て、各音ブロックを操作するのだけど、操作箇所を人の手に委ねるというのが、こんなに大変だとは思わなかった。

 ストーリー立てて魔法を操作するのと違って、瞬発力と正確性が必要になった。

 何せ、音が出なかったり、間違った音が出るとアリーチェがこちらを見て悲しい顔をするのだ。

 しかし、音が出ないのはまだしも、間違った音がわかるとは、内のアリーチェは天才かもしれん、将来は天才音楽家も目指せるな。


 アリーチェの演奏っぷりに、操作の限界に近づき、久しぶりに脳が焼ける感じがした。

 焼ける感じがする脳内に、一つのひらめきが生まれた。

 セット化が出来たように、これも繋げてしまえばいいと。

 そう、押し込んだら音がなるように、そういう風にしてしまえばいいと、ひらめいたのだ。


 何故かそこからはスルスルとうまくいった。

 繋げたものは僕が直接操作せずとも、魔力の供給さえちゃんと出来ていれば、僕のイメージ通り動いたんだ。


 アリーチェが鍵盤を押す、それに繋げた音ブロックが最初の設定通りの音を出す。これはすべて自動でなるようになった。

 なんとなくだけど、この設定された動きは僕の脳内領域を使って動かしている感じがする。

 

 アリーチェはこいつにドハマリして、最近のお風呂ではずっとこれをねだってくるから、アリーチェが飽きるまでピコピコBGMは、練習だけして取っておこうと思う。

 鳴らせる音も波長を変えて変化させたり、黒鍵も増やして音階も増やしたりしたから、まだまだ飽きる様子がなさそうだ。

 ただ、この自動操作はとりあえずはここまでが限界みたいだ。

 なんか脳内領域が足りない感じがする。

 使っていればこれも増えていくかな?


   ◇◇◇◇


 トシュテンさんとの話が終わり、父さんが戻ってきたけど、難しそうな顔でしかめっ面をしている。


「どうしたの父さん? 何かあったの?」

「あ、ああ。親父がここに来ると連絡があった、と、トシュテンから報告を受けた」

「おじいちゃんがくるの? たしか、辺境伯様の使いをしているって、言ってたっけ? 辺境伯様がこの村に何かようなのかな? 」

「そうだと思うが来てみないとわからんな。あといつものように、お、お袋も一緒だとよ」


 父さんはおばあちゃんを呼ぶとき、たまにためらうから、仲が悪いのかなと思ったときもあったけど、アリーチェの真似して「ばあば」とか言って、からかう時は楽しそうだから違うみたいだけどね。


 あれ? でもなんで難しそうな顔をしていたんだろう?


「おじいちゃん来るの嫌なの? 変な顔してたよ?」

「ああ!?誰の顔が変だって?──って、そうじゃなくてな、お前に話しても、仕方ないことなんだけどな」


 そんな前置きをしながらも教えてくれた。


「俺もよくは知らないんだけどもよ」

「うん」

「魔の森ってのがあってな、そこにいたはずの魔物が、別のところで発見されたそうだ」

「ふーん、それって何か危ないの?」

「いや、この村からは相当離れているから問題ないんだが、魔物が動けばそれに怯えてた獣や、下手したら魔獣まで予測がつかない動きをする場合があるから、一応気をつけろと一緒に連絡があったとさ」


 あぁ、逃げ出した混乱が波のようにこっちに向かうかも知れないから、警戒だけはしておけってことか。

 ちなみに魔物は人の形をした魔法を使う種族のことで、魔獣は魔法を使う獣のことを言うらしい。

 どっちとも殆どが自己強化しか使えないけど、ただの獣よりは遥かに恐ろしいとのことだ。じゃあ、フォレストウルフも自己強化使っていたのかな? 僕は父さんの命令で、すぐに逃げたからわからなかったな。


「一応、用心のために剣を出しとかないと、いけないかもな」

「えっ? 父さん剣とか持ってたの? 」

「そうだぞ、手入れだけしてしまってあるから、知らなかっただろう? 俺はこう見えて、なかなか強かったんだぜ」


 へー、そんな父さん見たことなかったから全然知らなかったや。

 父さんは森にも入らないし、剣を持ってるなんて、今はじめて知ったから、戦うイメージなんてまったくなかった。


「ここは森と山の存在に怯えて魔物は近づかないからな。そのおかげで、戦うことなんてなかったから、剣は必要なかったんだ。前に出てきた通り魔獣と獣はいるがそれもほとんど出てこない、この前フォレストウルフが出てきたのが、この村が出来て初めての魔獣だったんだぞ」

「そうなんだ。あっ、魔物ってどんな姿してるの?」


 ちょっと好奇心にかられて、父さんに聞いてみたら代表的なものはファンタジー物でよくあるゴブリンとかオークみたいな奴らしくて、それ以外にも色々いるらしい。

 ゴブリンやオークくらいだったら、聖木がある村なら魔獣と同じく避けられたとしても、強力な魔物になるとそれも効果が薄く襲われる場合もあるそうだ。


 初めて魔物のことを聞いて思ったんだけど、この村ってすごく平和だったんだ。

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