第六話 説明と幼馴染と無神経

 魔獣が出たとは言え、まだ日が高いうちから開拓作業が終わって家に帰るとなると、ちょっと罪悪感みたいなものが生まれるが母さんに報告しないといけないので素直に帰る。

 まだ、魔獣が出たことは広まってないみたいだけど、噂話として尾ひれや背びれが付く前にちゃんとした事実を説明してたほうがいいだろう。


 家に到着し扉を開けようとすると扉の向こう側から可愛い魔力が近づくのを感じるので、少し待つと思ったとおり扉が開かれる。


「やっぱり、にいたん!!おかえりなさいなの」

「ただいま、アリーチェいい子にしてた?」

「うん、あーちぇはいつもいいこなの」


 僕の腰に抱きついてきたアリーチェにただいまの挨拶をするとアリーチェが両手でバンザイをして僕の顔を見つめてくる。

 抱っこしての合図だ。

 アリーチェの願い通りだっこすると、アリーチェを追ってきたのか母さんの姿が見える。


「アリーチェどうしたの?だれかきたのかしら──あ、あら、ルカじゃないどうしたの?」


 母さんが少しびっくりしたような顔でお仕事は?大丈夫なの?と聞いてくる。


「うん、 僕は大丈夫だよ? それよりも話すことがあるから中に行こうよ、母さん。一緒にレナエルちゃんにも話さないといけないから 」

「ええ、そうよね、ごめんなさい。母さんなにか焦っちゃった」


 一緒に居間に移動する途中、「にいたん、べたべた」と僕のほっぺをアリーチェが触っている。


「ああ、ごめんねアリーチェ。結構汗かいちゃったから」


顔と手だけでも洗おうしたらベタベタするのより離れるのを嫌がるアリーチェだったけどなんとか説得し母に預ける。


「ごめんね、アリーチェすぐ行くから母さんと待っててね」

「……あい」


 それでも不満そうなアリーチェをひとなでしてお風呂場に向かう。


「あ、ルカ。いまはレナエルちゃんお風呂に入ってるから……」

「ああ、そうなの?わかったよ母さん」


 僕が作ったお風呂は保温性がいいし熱めに入れているとはいえ、さすがに温くなってるからついでに温めて上げたほうがいいってことかな。

 毎日レナエルちゃんが入るということでいつも朝にもお湯を溜めるようにしている。水仕事とかに使ったあとにレナエルちゃんがお風呂に入るという流れだ。


「ちょ、ちょっとルカ?」

「すぐ戻るから後できくよ。母さん」


 母さんが後ろでなにか言っているがさっぱりしたい欲も出てきたので後で聞くと決めてお風呂場に入った。

 お風呂場に入るいつも思うのだけど自分で作ったとは思えないくらい更衣室と浴場の作りも完璧だな。


「ソニアおばさん? どうかしたの?」


 浴室の木の扉の向こうからレナエルちゃんの声が聞こえる。


「いや僕、ルカだよ」

「えっ、ル、ルカ?なんで昼間から、じゃなくてなんでお風呂場に」

「ああ、顔洗うついでにお風呂温めてあげようと思ってね、ちょっと入るね」

「えっ、ちょっちょっと!!」


 レナエルちゃんが焦った声をだすが僕はもう会話するのが少しめんどくさくなってきている、早く洗いたいし早く居間に戻りたい。


「お湯、やっぱりぬるいね。温めるから暑かったら言ってね」


 湯船に手を入れるとやはりぬるかった、水に干渉し温度を上げる。そのまま桶でお湯をもらい、顔を洗う。

 ついでにうがいもして吐き出しお湯とともに流した。


「邪魔してごめんね、ゆっくり入ってって言いたいとこだけど、ちょっと事件があってね、説明するから早めに上がってね」

「あわわ、う、うがいまで……」


 レナエルちゃんが顔を真っ赤にしているので熱かったのかなと思い聞いてみたけどぶんぶんと首を振っている。


「大丈夫だから……早く出ていって……」


 蚊の鳴くような声でレナエルちゃんがつぶやいた。僕は別に難聴ではないので聞き返しもせずに素直にわかったと言って居間に戻っていった。


   ◇◇◇◇


 居間に戻るとすぐにアリーチェが駆け寄ってきたのでそのまま抱き上げる。


「にいたんはどうかなアリーチェ?べたべたしないかな?」

「しなーい、さらさらー」


 アリーチェを抱きかかえたまま、自分のコップに冷やした水を創り出す。飲んでいるとアリーチェも欲しがったので少し温度を上げてから飲ませた。いつも「にいたんのおみずがいちばんおいしい」と言ってくれるからいれた僕も嬉しくなってくる。


「さっきはごめんね母さん、何のようだったの?」

「レナエルちゃんがお風呂だって言ったわよね? どうしてお風呂行ったの?」

「? 顔を洗うためだけど?あ、ちゃんと温め直してあげたよ」

「あなたは、全くもう……いい?レナエルちゃんは女の子なのよ」

「うん、知ってるけど? 」


 母さんが言ってることがさっぱりわからない、レナエルちゃんは女の子だってことなんて最初から知っている。


「はぁ……もう、いいわ。とにかくレナエルちゃんに謝っときなさい」

「よくわからないけど、わかった」


 とりあえず謝ればいいんだな。母さんがそう言ってくるってことは僕がなにかやらかしたんだろう。

 そんな話をしていたら当の本人のレナエルちゃんが「上がりました~」とか細い声で入ってきた。なんで敬語になってるんだろ?

 僕を見るとまた真っ赤になってるし。


「レナエルちゃんさっきはごめんね。母さんに言われて気付いたんだ」


 ほんとは全く気付いてないけど、とりあえず言われた通り謝っておいた。


「う、うん、今度はちゃんと心の準備させて……」

「? うん、わかった」


 なにか誤解を生んでる気がするけどまあいいか。今日の話もしないといけないし、コップに冷えた水をまた創り出してレナエルちゃんに渡し座るように促した。


「ありがと……あ、つめたくておいしい」


 レナエルちゃんが落ち着いたところで話し始める。

 みんな無事で怪我一つなかったと最初に説明してから、魔獣が出たことを話す。

 フォレストウルフが5匹でたと言ったら母さんが驚いていた、強くはないが群れど来られると厄介だということを知ってたみたいだ。

 アリーチェとレナエルちゃんはフォレストウルフがわからないからぽかんとしてた。僕も初めて知ったからフォレストウルフ自体はわからないけど狼の怖さは何となく分かる。


 僕が村に戻って神父様を呼んでる間にほとんど終わっていて、最後は父さんが決めたらしいと話したら「とうたん、つよい」とアリーチェが喜んでいた。


 僕が早く戻ってきたのは魔獣が出たから今日の所は作業も終了。早く、帰って母さんたちに事情を話せと父さんから言われたと説明をした。


「レナエルちゃんも心配しないで大丈夫だよ。ロジェさんも怪我なくピンピンしてる」

「うん、ありがとう。それを言うため早く帰ってきてくれたのね」


 僕は知らなかったことだけどちょうどこの頃父さんに弾き飛ばされてピンピンじゃなくなって、神父様から回復魔法を受けていた。


 説明が終わり、みんなで遊ぼうとなったが抱っこしてたアリーチェが静かだと思っていたらいつの間にか、おねむになっていたのでみんなでお昼寝することになった。

 

 母さんと僕とでアリーチェを挟んで寝るのかと思ったけど、母さんが「ルカもたまには母さんと一緒に寝てほしいわ」ということなので、レナエルちゃん、アリーチェ、僕、母という並びでお昼寝をすることになった。


 目を瞑ると今日のことで疲れていたのかすぐに眠気がやってくる。

 夜寝る時はアリーチェも母さんと父さんと一緒に寝ている。



 そういえば僕って、いつの頃から一人で寝てたっけ?

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