第五話 原因と仮説と焦燥
手を繋がれて神父様に連れられて裏門まで行ったところで、父さん達も魔獣退治が終わって戻ってきた。
「お疲れさまでした。みなさん怪我は──どうやらないみたいですね。よかったです」
「神父様すまねぇな、慌てて準備させたみたいで」
「いえ、無事が何よりです。回復魔法と言っても万能ではないのですから」
今回、先に神父様へと言われているのは回復魔法を使える人たちに準備してもらって、何かあったときにいち早く駆け付けてもらえるようにするためだ。もちろん避難が先だと言うケースもあるらしい。
「……ルカ、お前は大丈夫か?なんともないか?」
「うん、父さんも知ってる通り真っ先に逃げたからね」
「そうじゃなくてよ、……その、なんだ、魔獣とか見たからビビってんじゃねーかと思ってよ」
父さんの言葉にムッとする豆粒程度の大きさしか見てないのにビビるわけないじゃない。近くに寄られてたら下が大変なことになったかもしれないけど。下の話は抜きにしてそのことを話したら父さんが頭をなでてきた。
「そうか、だったらいいんだ。なぁ神父様?」
「ええ、ルカくんは立派でしたよ。迅速で的確でした、手の震えもなかったようですしね」
にっこりと僕に向かって神父様が笑いかけた。
なるほど、手を繋がれてたのは僕が怯えてるかと思い、安心させてくれてたのか。
そういや僕まだ十歳じゃん。怯えてたほうが良かったかな?……もう遅いか。
「お前たち、今日の開拓作業は終わりだ。家に帰っていいぞ。魔獣の肉はさばいて、少なくてもいいから村の連中にも配ってやってくれ。
それ以外の素材は後で決めよう。ロジェお前は俺達と一緒だ」
「へーい」
レナエル父の間の抜けた返事を聞いたあと開拓メンバーはそれぞれの返事を返して解散した。
僕は村長さんのところまで連れて行かれたあと見つけた経緯を聞かれただけで解放された。
「ルカ、お前も今日は終わりだ」
「う、うん」
生まれて初めて野良仕事が早く終わった気がする、たぶん今までなかったよね? ちょっと気分が浮かれる感じになってたけど、同時に空いた時間何していいかわからないから、ソワソワしてきた。
「……家に帰って母さんに報告してくれ、それが終わったら、アリーチェやレナエルと遊べばいいだろ」
「あっ、そっか、……うん、そうするね」
──そうだ、家に帰って遊んでもいいんだ。僕ちょっと、ブラック企業で働いてる人みたいになってたな。
◇◇◇◇
──村長、トシュテン宅
「それで今回、こんな真っ昼間から魔獣が出た理由はなんだと思う? ロジェこの前、森の中に潜った時はどうだ、何か予兆はなかったか?」
「いや、俺たちが潜れる深さのところでは特に何もなかった。少なくとも俺たちが気付けることはなかった」
この村では開拓メンバーとして以外に狩りチームのリーダーも担当するロジェが答える。
「そうか、お前たちで気づかないのなら原因はさらに奥でなにかあったか?森の奥で縄張り争いに負けてこちらへ逃げてきたとかよ」
「わからん、実はただの偶然だったりとか?」
「そんな訳あるか、魔獣は頭がいい。無駄に住処から出ることはないし、出たとしても自分達の不利な昼間に出るはずがない」
軽口を叩くロジェが俺の言葉に肩をすくめるが、空気を和ませるために言っただけで、目を見れば真剣そのもので全くそんなことを思っていないのが分かる。
だが──
「もしかしたら本当に偶然と言ってもいいかもしれません」
考え込んでいた神父様がそんなことを言い出す。
「おいおい、神父様。エドさんが言っただろう──」
「もちろん、私もわかっています。これでも魔獣のことは人並み以上には知っているつもりです」
ロジェの発言を途中で遮って話し、そのまま続ける。
「これは一つの推論だと思って聞いてください。通常フォレストウルフは5、6匹で狩りをします。そして、彼らのテリトリーである森の中ならば昼も夜も関係なく狩りをします。開拓地に現れたフォレストウルフも5匹でしたからその可能性も高いでしょう」
「なるほどな」
確かにと俺とロジェ、トシュテンがうなずく……こいついたのか、いやこいつの家だから当たり前だが、本当に影のようなやつだ。
「魔獣は魔力感知の能力を本能で持っているといいます。それは魔力の高いものを餌として見つけるためだとか、そしてこの村にはそれがある」
「もしかして魔力草ですかい?神父様、そいつを狙って来ていたと」
そうか、と、ロジェの言葉に魔力の高い魔力草を発見したからフラフラとおびき寄せられたのかと思ったが神父様は首を横に振った。
「いえ、確かに魔力草は魔獣が好んで食べると聞きます。ただし、それは草食系の魔獣です。フォレストウルフのような肉食系の魔獣はあまり好んで食べません」
飢餓状態のときは違うのですがと神父様が続けた。
「じゃあ、なんだって言うんだ?」
「ルカくんですよ」
その言葉だけで俺の体からザッっと血が引いた。顔は真っ青になっていることだろう。
「ルカ……だと?」
「そうです、あの子はまれに見るくらい魔力が高い。それに魔力に愛されている子です。その魔力量、質どれをとってもフォレストウルフには美味そうな餌に──」
餌──その言葉を聞いた瞬間引いていた血があっという間に頭にのった。
「俺の息子を餌なんて言ってんじゃねぇ!!!!」
「隊長!!!」
カッとなって神父様に飛びかかる俺を止めようとしたロジェを弾き飛ばしながら神父様の襟を掴む──寸前でトシュテンに止められた。
「坊ちゃま、落ち着いてください。神父様は何もルカくんを悪く言ったわけではありません」
トシュテンのいつもどおり落ち着いた声つられるよう上っていた血も落ち着いてきたらカッとなったことが恥ずかしくなってくる。
「すまねぇ、神父様カッとなっちまった。このとおりだ許してくれ」
俺は膝に手を付き、ぐっとできる限り頭を下げた。
「いえ、私も失言でした。話とは言え自分の息子を餌呼ばわりされて怒らない父親はいないです、特にルカくんは色々ある子ですから。私は人の心がわかってない時があると注意されていたにも拘らず……申し訳ない修行不足でした」
神父様も頭を下げてくれるが本当に申し訳ないことをしたと反省していたら弾き飛ばされていたロジェが不満の声を上げる。
「あの隊長? 神父様? 一番被害を受けた奴がここにいるんですが、助けてくれませんかね? 」
「ロジェは鍛え方が足りません。坊ちゃまをしっかりささえなさい」
「親父、こっちも全力で止めたんだ。そりゃないぜ……」
いつの間にかロジェの側にいたトシュテンが助け起こしながら説教をしている。
「ああ、すまん……だが、二人共言葉が昔に戻ってる。親父の領地にいたときじゃないんだ」
そりゃ俺が悪かったけどもよと小声で謝る。
それから落ち着くためにトシュテンからお茶を入れてもらい話を続けた。
「話を戻しますが。ルカくんを発見したフォレストウルフはその魔力量と質を感知したせいで抗えなかったのでしょう。昼間なのに森の外まで出てきたのはそれが原因ではないのかと考えました。」
ルカくんは魔力を隠すこと知らないみたいですし、と神父様は言う。
極上の肉が調理されてさあどうぞ食べてくださいと置かれているようなものかと神父様にブチ切れたのに同じようなことを想像しちまった。
それから、森の再調査やフォレストウルフの肉以外の素材の話をしたあとに神父様が明日のルカことを告げてくる。
「それで、エドワードさん。ルカくんには明日、開拓を休んで教会にきてくださいと言ってあります。」
「──神父様、それは」
「ええ、ルカくんが教会に来られたら──」
そうしてしばらく神父様とルカのことを話しあってから今日はそれで解散となった。
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