第四話 遠距離で弾幕で楽勝

 今日も今日とて開拓中、この前謎に能力が上がったから、ふんわり可能性があるんじゃないかと思ってる「ずっと使ってたら能力上がるんじゃないの?」説を信じて開拓にも土魔法でボーン作って練習がてら一緒に地面を耕させている。


 ボーンにも自分の魔力のためか強化はかかるみたいだし僕と同じ速度で地面も耕せる。

 それに加えさらに負荷を増やすため棒人間を僕の肩に乗せて、タップダンスやコサックダンスやラインダンスを踊らせている。

 ボーンは複雑なため、見て制御するなら3体、見ずに制御するなら1体が今の所の限界だ。制御能力をギリギリまで使うため棒人間を追加で出して練習してる。


 最初は父にも他の人達にもこの魔力の無駄遣い──僕には無駄ではないが──してる姿を見て非難するような目で見られていたが、妹のためだし、仕事だってボーンで僕の作業量は2倍になっているというと父は納得したし、周りも父が納得させた。もちろん変な目で見られるがもう慣れた。


 練習してもいいから今度中央の広場で劇を披露しろと言われた、この村に娯楽が殆どないのは分かるけどぶっちゃけめんどくさい。

 僕は身内でわちゃわちゃやってるのが好きなタイプのオタクなんだ。覚えてないけど前世もそうだったはず。

 ああ、でもそう言えば前にレナエルちゃんにも見せてって言われたな。広場で一緒に見せてしまえば約束はしてないけど約束通り見せたよ、といって誤魔化せばいいか。 


 考えながらもガンガンと土にあるまじき音を立てる地面を掘り返しながら開拓を続けていると、なんとなく感じるものがありそちらに目を向けると何か動くものが見える。何事かと思ってよく見ると遠くの森から何か数匹が出てきている。

 何かあったらすぐに呼べと言われているので風魔法を使ってホイッスルのように甲高い音を鳴らす。


「どうしたルカ!何があった! 」


 その音を聞きつけた父がすぐに駆け寄ってきたので、何か見えたとまだ豆粒大にし見えない動くものを指を指した。


「なんだ?……ありゃ、フォレストウルフだ!こんな真っ昼間からなんでだ!──全員作業を止めて集合だ!フォレストウルフが出た!すぐに襲ってくるぞ!ルカもよく気付いてくれた偉いぞ!」


 作業してる村のみんなは結構広い範囲で作業していたけど自己強化をみんな使ってるからか、父の大声のあと、あっという間に集まる。もうすでに弓に持ち替えてる人もいるくらいだ。その中にはレナエル父もいた。


「弓持ちは柵の近くまで引き寄せて確実に狙え、矢を無駄にするなよ、それ以外は土魔法で投石だ。できるだけ足を止めて弓で撃ち殺しやすいようにしろ」


 父がここまでリーダーシップを発揮しているのは初めて見る。

 普段はただの娘馬鹿なのにこういう姿を見せられるとちょっと尊敬するな。


「ルカ、お前は全速力で村に戻って神父様に連絡、その後村長に連絡、それから村のみんなを教会に避難させてもらえ、農作業に出てる奴等も全員だ。魔力を使い切ってるなんてアホなことはしてないよな? 」

「もちろん村まで100往復しても平気だよ!」

「お、おう、そうか」

「あとこれ投石用と矢のかわりになればいいけど」


 魔力励起と循環で山になるほどの投石用の石と先を尖らせただけの棒を作り出す。羽まである複雑なやつは無理なんだ。


「ルカお前……」

 

 父が何故かあきれたような声を出すがハッとしたように首を振った。


「いやいい、早くもどれ時間はないぞ」

「わかった!」


 ボーン達の制御を切ったので余った力で自己強化を最大まで引き上げ全速力で村に戻った。


   ◇◇◇◇


「あいつは全く……」


 俺はここにいる誰よりも早い動きで、去って行く息子の背中とその息子が大量に作り出した矢と石を見ながらため息をつく。


「父親に似て変な子だな、なぁ? エド隊長?」

「うるせぇよ隊長って言うな、あと、あいつは俺より変に決まってるだろ」


 矢を拾いながらここに来る前は部下で今は同じ村の隣人のロジェがからかうように声をかけてくる。


「わかったよエドさん、しかし、あんたの息子が作ったこの矢、真っ直ぐじゃないか。しかもこんなに大量に」


 この石もすげぇ、きれいな丸だなとつぶやくロジェ。

 確かに矢羽こそついていないもののここまで真っ直ぐなら村の曲がった矢より狙い通りに撃つことができるだろう。

 で、この大量の矢だ。俺が指示したこと全部無駄じゃねーか。

 フォレストウルフは怖い、しかも今回は5匹もいやがる、複数いる魔獣は非常に厄介だ。

 だがこの千本以上はある矢があれば撃ち放題だ。

 

「作戦変更だ、柵までおびき寄せなくていい、適当に好きなだけ撃って殺せ。投石も必要になったらルカが作ったものを使え」


 この大量の矢とこいつら弓持ちの連射力があればあっという間に蜂の巣にできる。

 負傷も覚悟していたがこれなら楽勝だ。


「おらぁ!死ねぇ!!」

「撃ち放題だぜぇ!」

「きもちいいいいいい!」


 ……いつもは平気な面してたが、辺境で開拓だけしてたから、やっぱりストレス溜まっていやがったなぁ。

 まだ遠くにいるフォレストウルフに指に挟めるだけ挟み一度に4本の矢を放ち、狂喜乱舞して雨のごとく連射している元部下たちを見るとついてこさせてしまった後悔と感謝が胸をよぎるがそんなことより──。


「オメェらばっかりずりぃぞ!俺にも撃たせろ!!」

「隊長は石でも投げててくださいよ」

「そうだそうだ隊長は石でも馬鹿力で届くからいいでしょ!」


「だから隊長って言うな!敬語も使うな!」


 怒鳴りつけながら、苛立ちをぶつけるように力いっぱいぶん投げてやった石は魔獣にぶつかって砕けると思ったがそのまま頭を撃ち抜いた。

 そしてそれが最後の一匹だった。


   ◇◇◇◇


──時間は少し戻って


「神父様はいらっしゃいますか!」


 裏門から入って全力で教会に駆け込んだ僕は神父様を探す。

 中で掃除をしていたシスターが僕の慌てた様子を見て急用だと気付いたのか「少しお待ち下さい」と声をかけて小走りで奥にいって、すぐに神父様を引き連れて戻ってきてくれた。


「フォレストウルフというのが出たと父が言ってました。神父様と村長に伝えて村のみんなを教会に避難させてもらえと」

「魔獣が出ましたか、狼系の魔獣は夜に出るのがほとんどなんですが……おっと今は避難ですね。トシュテンさんの所に私も向かいます」


 あれって魔獣だったんだ。豆粒程度だけど初めて見た。あ、トシュテンさんとはこの村の村長のことだ。

 神父様がシスターに怪我人が出た時のための指示を出して教会から出た。

 おや?と神父様が裏門の間から遠くを見つめながら首を傾げる。


「もう、終わりそうですね」

「え?神父様この距離でみえるのですか? 」

「ええ、強化の応用みたいなものですよ」


 へー知らなかったそんなこともできるんだ。


「ほとんど弓だけで決着がついたみたいですが、あの大量の矢は?──おっと、あなたのお父さんが投石で終わらせたみたいですね、素晴らしい強度の土魔法です」

「石は使ったかわからないですけど、矢は多分僕が作ったやつですよ」

「ほう、あなたが……」


 ちらりとこちらを見てくるけどこういう時、神父様の糸目が怖いんだよなぁ。


「なるほど、では明日私のところに来てください。」

「えっ?なんで急にどうしたんです? それに明日も開拓がありますから」

「エドワードさんには私から言っておきます。なに、悪いようにはしませんよ」


 なに?超怖いんだけど。僕の魔法なんかだめだった?


「今日は開拓も中止でしょう、一応、怪我がないか確認のしてエドワードさん達と一緒にトシュテンさんの所へ報告に行きましょう」


 もう終わったなら戻りたいんだけど、神父様が僕の手を取って歩いているので逃げられない。

 柔らかく握られてるのに離れる気配がまったくない。


 達人か?……なんてね十歳の子供が大人の手を振り切れるわけないじゃない。

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