第七話 父と狼と脚色

「にいたん、ごはんおいしかったね」

「お肉たっぷりでおいしかったね」

「うん!」


 お風呂に入っていたらアリーチェと夕ご飯の話になった。

 日が沈む前には狩られたフォレストウルフがお肉になって配られたので、夕ご飯にシチューとなってでてきた。

 お肉たっぷりといっても日本人が想像する肉の塊ではなく一口大よりも小さい肉が入っているくらいだ。

 それでも生肉はここの生活では結構貴重なものだ。普段はたまに来る行商人さんが持ってくる塩漬け肉くらいしか手に入らない。もちろんこれも貴重なんだけど。


 改めて見たフォレストウルフは想像していたよりも遥かにでかく、僕なんて丸かじりにされそうな大きさだった。

 これが五匹も出た日には全員避難するしかないな。集団で来られるのも怖いけどバラバラに動かれて村が襲われたりしてたら犠牲者が出てたんじゃと思い鳥肌が立った。

 フォレストウルフが頻繁に出るようなら開拓もできなくなる。


   ◇◇◇◇ 


「今日は父さんたち、すごかったんだよ」

「そーなの?」

「そうだよ、こんな風にね」


 そう言いながら水魔法を使う。

 最近の練習とパーツのセット化ができるようになったおかげでドット絵を作って動かすのも出来るようになってきたから、今日はそれのお披露目かねて父さん達の勇姿を表現してみた。


 父さんは金髪で他のメンバーは栗毛が多いので父さんが目立つように全員栗毛で創ろうかな。

 水魔法の色替えは光の屈折や反射、吸収を変えてできないかな?と思って試してたらあっさりと出来た、これもセット化ができるまでは無理だった気がする、積極的に試してなかったからいつ出来るようになったかわからないけどね。


 そうしていつもどおり浴槽の縁を地面に見立てて、某配管工のきのこ取ったあとのやつ農家風を金髪キャラ一人ドット父さんと、栗毛キャラ九人のドット仲間を創り出した。


「なにこれ、なにこれすごいの、にいたん!」

「すごいでしょ?アリーチェが喜ぶと思って兄さん頑張ったんだよ」

「にいたん!!」


 アリーチェが感極まったのか湯船に大波を発生させながら抱きついてきた。でも、目はドット絵に釘付けだ。


「この金髪なのが父さん、それと父さんの友達だよ」


父さんのドット絵に──よく父さんが筋肉を見せつけてくる時のポーズ、いわゆるダブルバイセップス──ポーズを取らせる。

 アリーチェはそれにぶら下がることが好きなので父さんのイメージと言えばこれだろう。


「とうたん!」


 うんうんとアリーチェにうなづいていたら、小首をかしげた。


「どうしたの?」

「ねーたんのとうたんはどこなの?」

 

 アリーチェがいう、ねーたんのとうたんとはレナエルちゃんのお父さんのことでロジェさんのことを言っている。


「あ、そうだね。わすれてたよ、アリーチェは気付いてすごいね」

「えへん」


 アリーチェが胸を張って「えらいでしょ」のポーズを取ったので頭をなでてあげながら、ドット仲間の先頭の人を銀髪に変えた。


 そして、横スクロール風に表現した父さん達のドットの前に、これまたドット絵で作った柵とフォレストウルフ達五匹も創り出した。

 犬を大きくしただけだと、アリーチェに話した童謡の中では犬はだいたい味方なのにただ倒してしまうだけだと悲しむと思ったので真っ黒にして目だけ赤くしてさらにトゲトゲにし、イメージを悪そうに変えてみた。


「これは悪いワンワンなんだ」

「……わんわん、こわい」

「そう今日はね、このこわくて悪いワンワンが出てきたんだ」


 そう言ってフォレストウルフ達をゆっくり前に進ませる。

 

「にいたん、こわい」

「でもほらみて、アリーチェ」


 ドット父さんが腕を上げるとドット仲間が一斉に弓を構える。

 少しずつドット狼が前に進み、突出した最初に一匹が柵に近づいた瞬間、ドット父さんの腕が下る、それを合図にドット仲間が矢を放ち、一〇本の矢が雨のようにふり、柵に近づいたドット狼に降りかかる。そこでそいつのドットをバラバラにして消した。


「とうたんたち、たおしたの、でもまだいっぱいいるの」


 仲間がヤラれたドット狼はスピードを上げ四匹が柵を越えようとジャンプする。


「あぶないの!」


 そこを弓矢で迎撃、一匹が倒れるが他の三匹は柵を超えてしまう。

 近づくドット狼にさらに矢を放ちまた一匹仕留める。

 が、残りの二匹は素早く矢を避けてしまう。

 どんどんと二匹がドット父さんたちに近づいていく。


「!!」


 アリーチェはその様子を声も出せずじっと見ている。

 そのときドット父さんが風魔法でホイッスルのような音を出したあと、先頭の一匹だけに指をさす集中攻撃だ、と。


 ドット仲間の動きが変わり一匹に矢が集中する。そうやってようやく仕留められた。

──だが、一瞬気が抜けたと思われる瞬間、もう一匹が駆け抜け、先頭のドットレナエル父に襲いかかった。


「だめなの!」と手を出そうとしているアリーチェの腰に手を回し前に行かないように制御する。


 ドット狼が噛みつこうとした瞬間、ドット父さんが蹴り上げる。

 蹴り上げられて後ろに吹っ飛ぶドット狼とその隙に空中にジャンプするドット父さん。


 そうして空中ではドット父さんが二抱えもあるくらいの大岩(水魔法)を創り出してドット狼に投げつけた。


 ドット狼に着弾する大岩、そして大岩が爆発してついにドット狼達は倒された。


「とうたん、すごいの。さいごばーんてやっつけたの」

「こうして、村にまた平和が戻ってきたのでした。めでたしめでたし」

「めでたし!めでたし!」


 そのちいさな手で一生懸命にパチパチと拍手をしてくれた。


   ◇◇◇◇


 今回のは実際見てたわけではないから、大体の予想で考えて作ってみた。

 見た目重視のため全員弓矢持ちにしたし余裕だったと言ってたからあんなピンチには陥ってないんだろうけど、僕が村に行く前に父さんの作戦はそう言ってたし、最後は父さんが土魔法で決めたって神父様が言っていた。

 最後はちょっと脚色したかもしれないけど、まあ、大方間違ってないよね。


「とうたん、すごいね!」

「そうだね、父さんすごいよね」

「ねーたんのとうたん、あぶなかったの」

「父さんが助けてくれたね」

「うん、それでね、さいごのばーんてやつ、みせてもらうの」

「うん、アリーチェになら見せてくれるとおもうよ」


 体全体で表現しながら見て面白かったとアリーチェがずっとお話をしてくれるのを、魔法の制御で疲れた脳と充実した心のせいか、少し頭の中がふわふわしながらだけどちゃんと返事できたいたと思う。

 

 あ、今更ながらに思い出したけど。

 前回、初めて棒人形劇をやったあと母さんからアリーチェが興奮しすぎてなかなか寝付かないから程々にしなさいと言われたんだった。


「それでね、あのね、にいたん」


 ごめん母さんもう手遅れみたい。

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