一人暮らしと梅雨入り

まめつぶいちご

一人暮らしと梅雨入り

「おはようございます。それでは本日、月曜日のお天気を見ていきましょう」


寝る前に付けっぱなしだったテレビでは、スーツ姿の男性が無表情に梅雨入りを告げている。


「本日は朝から全国的に雨となり、気象庁では統計開始以降最も早い梅雨入りとの宣言が……」


 部屋の中では無機質な天気予報の声が続いている。


 今年は異常気象で5月頭なのにもう梅雨入りとの事だ。先週は先週で27度を記録し話題になっていたので、本当に異常だと思う。この国の四季はそのうち春と秋が無くなって、夏と冬だけになると私は思う。


 窓の外では予報通り雨が降っており、冷んやりとした冷気と静寂が部屋の中を包んでいる。時折聞こえる鳥の囀りと雨音、カーテンの隙間から漏れる太陽の日差しが非現実感を醸し出している。


好きだなぁ、こういう天気……


 私は羽毛布団の中で雨の音に耳を傾ける。部屋は寒いけど布団の中は暖かく、冷たい自分とのあべこべに不思議な感じがした。


やっぱり、一人暮らしは失敗だったなぁ……


 少し前のことを思い返してみよう。今年の4月から私は社会人になった。お父さんは若い娘が一人で都会に住むなんて危ないと猛反対だった。お母さんは一人暮らしも出来ないようじゃ結婚して苦労するんだから、今のうちに一人でやってみなさいと応援してくれた。お母さんはよく一人暮らししている時が寒しかったけど一番自由を感じられて楽しかったと、口癖のようにいうので自分がしたいんだと思う。


 就職と共に一人暮らしを始めたこの部屋は会社から徒歩10分で、近くにスーパーもドラッグストアもあり治安も良い。電車は痴漢がいるからとダメだと、お父さんがら泣きそうな顔をするのでここは私が折れた。家賃7万円と社会人1年目にしては高いけど会社が3割、お父さんが3割負担してくれるため実質家賃は3万、お父さんには感謝しかない。


 私の高校生活は根暗キャラで終わり、大学に入ってもそれは変わらず、彼氏もできることなく青春を知らずに終わってしまった。両親は安心していたみたいだけど、私も若いうちにもっと遊んでおけばよかったかなと後悔している。私に勇気があれば彼氏とか出来て海に遊びに行ったりとか、青春出来たかな。


 社会人になってからは後悔したくないと思い。4月に入社してすぐに同期入社の友達が増えた。同期の男の子達とも自分から会話を振って、コミュニケーション能力の向上に努めたし、出来なかった青春を謳歌しようと飲み会にも積極的に参加した。何度か飲み会に参加しているうちに、ちょっといいかな?って思う男性にも出会えて連絡を先を交換したけど、初彼氏は慎重に選びたかったし比較対象がないから私は、複数の男性と連絡先を交換した。これがいけなかったのかな……。


 何度か遊ぶうちに一緒に遊園地に行ったり、映画館に行ったり複数の男性とデートをしたけど、私の身持ちは固く、私の家にあげること体を許すことは絶対にしなかった。


 そんな私部屋の中には現在進行形で男性がいる。同じ会社で何度も飲み会で一緒になった事があるけど、最初の1回しか会話をしたこともなく連絡先も交換した事がない。


 今朝、私はお腹に痛みを覚えて目が覚めた。目を開けると私の部屋には彼がいて、私の上に馬乗りになっていた。その手には包丁が握られ、布団の上から私のお腹に突き刺していた。


「君が悪いんだからな!この浮気者が!」


何度も振り下ろされる包丁があまりに痛く、喉から溢れ出る血で声も出ない。体を動かすだけの力も出ない私はされるがままに刺されるしかなかった。


しばらくすると男は私の上から降りて、ふらふらと部屋から出て行った。


 ぽたぽたと落ちる雨の音に耳を澄ませ、時折聞こえる鳥の囀りに心を癒され、寒い室温と温かい布団、冷たくなっていく自分の体のあべこべ具合が妙に心地よく、そのまま私はそっと目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一人暮らしと梅雨入り まめつぶいちご @mametubu_ichigo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ