第12話 今日のお兄ちゃんは謎解きをする

 私はお兄ちゃんの妹。団らんの場であるリビングは異様な雰囲気をまとっている。散らかったぬいぐるみに不気味なオブジェ。そして私はリビングの内側の鍵に仕掛けをほどこし、扉を開けっぱなしにしてリビングを出る……。


 電気を消した廊下に潜む。もうすぐお兄ちゃんが帰ってくるはずだ。――ッ!! お兄ちゃんだ!! お兄ちゃんが何も知らずに!! カモ!!


 ……おっといけない。落ち着け。私はブラコンじゃない。お兄ちゃんの妹であることをアイデンティティとしているだけだ。だから、お兄ちゃんの無防備な姿にテンションを上げたりしない。


 お兄ちゃんは何も知らずにリビングへ入る。私はすかさずリビングの中へ入って鍵を閉める。そして内鍵の仕掛けが発動して鍵にはカバーがかかる。それを3ケタのダイアル式の鍵でロックした。ふっふっふ。これで二人仲良く閉じ込められたってわけだよお兄ちゃん。


 お兄ちゃんは内側から掛けられた鍵をみて困惑している。実は窓から庭に出て普通に脱出できるのだがそんなことは教えない。私はお兄ちゃんに事情を説明する代わりに1枚のメッセージカードを渡す。


【あなたは閉じ込められた。4つのヒントを集めて脱出しよう。次のヒントはキッチンの箱の中。】 【39】


 表にはメッセージ、裏には数字が書かれたカードだ。お兄ちゃんは合点がてんがいったようだ。そう、脱出ゲームである。


 物分かりのいいお兄ちゃんは早速謎解きを開始する。ふぅ。怒られなくてよかった。ところで私たちはちゃんと脱出できるのだろうか。自分で仕掛けたくせにどきどきしてきた。


 キッチンに置かれているのは扉のついたプラスチックの箱。お兄ちゃんが中を開けると、一見中には何も入っていない。お兄ちゃんは首をかしげる。私は困惑するお兄ちゃんを見てにやにやする。

 お兄ちゃんがそーっと、箱の中に手を入れると半分くらいで、何かにぶつかる。お兄ちゃんはハッとする。そう、この箱には斜めに鏡のシートを入れていたのだ。こうすると鏡が箱の側面を映して、中に何も無いように見えるのだ。


 鏡のシートを外すと中から出てきたのは新たなカード。


【リビングとキッチンの間。人形達の指示に従って封印を暴け。】【21】


 お兄ちゃんはとりあえず部屋のロックに対してカードの裏に書かれた数字から推測して『039』や『021』を入れてみる。しかし鍵は開かない。


 仕方ないといった様子でカードの表に書かれたヒント『リビングとキッチンの間。人形達の指示に従って封印を暴け』に従う。


 リビングとキッチンの間にはダイニングカウンターがあり、そこには指人形が何かの形を作るようにたくさん並んでいる。

 得心がいった顔のお兄ちゃんは身を乗り出して人形達を真上からみると、それらは窓に向かって矢印を描くように並んでいた。窓のカーテンは閉じられている。封印とはカーテンのことだ。むぅ。なかなか鋭いなお兄ちゃん。


 お兄ちゃんは迷わずカーテンを開けると、窓にカードが張り付いていた。


【骸骨の視線の先。お風呂上りの定番。】【110】


 次々と謎を解いていくお兄ちゃんは楽しそうだ。私も頑張って作った謎解きで喜んでもらえたら嬉しい。


 お兄ちゃんは部屋を見渡し、骸骨の人形を見つけて視線を止める。それは冷蔵庫の方を向いていた。

 お兄ちゃんは冷蔵庫を開けて中を見る。お風呂上りと言えば牛乳だよ! お兄ちゃんは少し考えて、扉側の溝から牛乳パックを持ち上げる。正解! すると中身はスカスカ。骸骨《スカル》だけにね。そして、中には最後のカードが入っていた。


【とうとう最後まで来たね。後は数字を足すだけだ。】【203】


 最後のカードを見つけたお兄ちゃんはリビングの入り口へ戻ってくる。そして、電卓を叩いて出てきた数字を緊張した様子で入力すると。――カチャリ。鍵が開いた。

 お兄ちゃんはついに脱出に成功した。楽しんでくれただろうか。伺うように様子を見るとお兄ちゃんは笑顔で、手には小さなガッツポーズを作っている。やった! 私もうれしくなる。


 私もお兄ちゃんも達成感でいっぱいだ。謎解きは出題される側と出題する側、どちらにとっても楽しいものなのだ。遊んでくれてありがとうお兄ちゃん。だが、実は最後に一つだけ謎解きが残っている。私はお兄ちゃんにお礼を言う代わりに最後のヒントを出す。

 

「浮かれるにはまだ早いよ。ヒントのアタマを繋げてみて、お兄ちゃん。」

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