第9話 今日のお兄ちゃんは面子をする
私はお兄ちゃんの妹。今日はメロンアイスを食べている。器がメロンの形で
ペシンッ! リビングに居たお兄ちゃんが突然、何かを床にに叩きつける。床には2枚のボール紙。表面にはキャラクターがプリントされている。
――ッ!! お兄ちゃんだ!! お兄ちゃんが一人で遊んでる!! 昭和!!
……おっといけない。落ち着け。私はブラコンじゃない。お兄ちゃんの妹であることをアイデンティティとしているだけだ。だから、お兄ちゃんの子供っぽく遊ぶ姿にテンションを上げたりしない。
あれはメンコだ。遊び方は簡単。参加者がそれぞれのメンコを床に置いて、順番が回って来たら自分のメンコを取り、床に叩きつける。このとき他のメンコがひっくり返ったらそのメンコを自分のものにしてよい。
細かいルールは様々あるがお兄ちゃんは一人でメンコを遊んでいる。修行だろうか。
お兄ちゃんは何度もメンコを地面に叩きつけるがなかなかひっくり返らない。そう、メンコは難しいのだ。
昨今、簡単に逆転が起こるゲームのことを
ペシンッ! ペシンッ! 何度もメンコを打ち付ける音が響く。やがて床に置かれたメンコがふわっと浮いて、ひっくり返りそうになる。おおっ! 一歩前進だよお兄ちゃん!
お兄ちゃんは今ので少しコツを掴んだようだ。ペシンッ! と鳴るたび、床のメンコが風で浮く。だがひっくり返ることはない。
惜しい。お兄ちゃんは床のメンコの真横に上から自分のメンコを叩きつけている。違う。そうではないのだ。私は悶々とする。メンコをひっくり返すコツは叩きつける位置と角度だ。床のメンコのすぐそばに斜めに、
がんばれお兄ちゃん! 私は声を出さずに応援する。息が上がってもなお、お兄ちゃんはメンコを投げ続ける。だが、投げる瞬間少しお兄ちゃんの体がふらっと横へよれる。メンコはあらぬ場所に叩きつけられるがそのままススーっとスライドして他のメンコにぶつかる。おはじきの要領で弾かれたメンコをみてお兄ちゃんはハッとする。どうやら風圧だけでメンコをひっくり返すわけではないと気付いたようだ。
少し息を整えたお兄ちゃんは静かに構える。先ほどまでとは違う。目線はターゲットの横の空間。腕を大きく開いて、斜めに投げる構え。いけ! お兄ちゃん! いっけぇー!!
――ペシンッ!! カラン!
やった! ひっくり返った! お兄ちゃんが成長する瞬間を目の当たりにして感動する。お兄ちゃんは今、メンコを”ひっくり返せる側”の人間になった。私は自分のメンコを取り出して言う。
「こちら側へようこそ。さあ、私と勝負よ! お兄ちゃんッ!!」
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