06 学校祭2日目

 昨日と打って変わって、余裕のある朝だった。模擬店。


 1年生は調理室を使った調理が禁止されている。冷凍フルーツをサイダーに入れるだけの、簡単で涼しげなジュースを販売していた。






 運動部の先輩方が、1年生のフロアに顔を出している。女子サッカー部もその中の1つだ。


 私の担当時間は13時。それまでは余裕がある。あちらこちらから「憧れの先輩とツーショット撮ってきた」と嬉しそうな声が聞こえる。


 私もすみれさんと写真を撮らなければ……。校内を探索するためにドアから出ると、菫さんと彩芽あやめさんがいた。急展開だ。こんな絶好のチャンスは来ないだろう。でも、ほぼ初対面に近い。相手が自分のことを覚えているとは限らないからだ。腹を括って声をかける。


「あ、あの……。菫さん。一緒に写真撮りたいです。」


ついに、ついに。私は言ってしまった。もしダメだったら全速力で逃げよう。脳内をフル回転させた。しかし、予想に反して、優しい言葉が返ってきた。


「うん、もちろん。」


その言葉を理解するのに数秒かかった。第三者から見れば普通のことだが、感覚がズレている私にとっては驚くことだった。


 邪魔にならないように壁のほうへ移動し、不慣れな手つきでタイマーの設定をした。自撮りなんて、高校生になってやっとするようになったものだ。流行りに疎いJKはこれだから困る。スマホの距離感はこれでいいのだろうか。とりあえず、笑顔で……。


 無事に撮れたのを確認して「ありがとうございます」と言った。


「どういたしまして。」


耳元に優しい言葉が入ってきた。今まで気付かなかったが、菫さんの方が少しだけ目線が高いようだ。変に意識してしまい、顔が熱くなるのを感じた。菫さんにこんなところを見られたくない、と教室にいた皐月さつきの方に逃げ出した。






 初めてのツーショットは、ぎこちない笑顔だった。それでも一緒に写真を撮れたという事実に、数週間は心を躍らせるのであった。

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