07 バレンタインデー・イブ

 昼休み。2年生のフロアに1人で行く勇気が出ず、芹那せりなについて来てもらった。階段を上った先にある2年2組には、会長さんがいた。


「あら、香澄かすみ。何か御用でもあった?」

「会長さん、じつはすみれさんを呼べなくて……。」

「そういうことね。あ、彩芽あやめ。菫を呼んでくれる?」


たまたま通りかかった彩芽さんにお願いすることになった。「菫、呼ばれてるよ」という声が教室に響く。少し待つと、菫さんが廊下に出てきた。私が呼んだのを知らなかったらしく、顔に「なんで自分が?」と書いてあった。


「これ、バレンタインです。たくさんお世話になったので。」


無地の紙袋を差し出した。「何がいいかな」「食べられないものあるかな」と30分程悩んで決めたお菓子。初めて文字で気持ちを伝えたメッセージカード。どれもこの日のために準備したものだ。


「え、いいの? わざわざありがとう。」


それから少し話をしたが何も覚えていない。きっと私にとって、それだけ幸せだったのだろう。


 自分の教室に帰る道中、「頑張ったじゃん、香澄。」と芹那に頭をぐしゃぐしゃにされた。






 翌朝に友達から聞いた話だが、その日の放課後に


「これバレンタイン? 誰から貰ったの?」

「香澄ちゃんだよ。お返し何がいいかな……。」


という彩芽さんと菫さんの会話をしていたらしい。


 フライングしたけど、きっと大丈夫だよね。ホワイトデー楽しみだな。頭の中の私がクラッカーを鳴らして喜んでいた。

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