10 遠足

 今年の遠足は全校生徒で遊園地に来ていた。9月にしては眩しい太陽が、私たちを歓迎しているようだ。塗り直すための日焼け止めを忘れたことに後悔する。


 例年は学年別に行き先が違うのだが、諸事情が重なってしまったらしい。もちろん生徒間の風の噂だが。






 芹那せりなには愛する彼氏ができたので、皐月さつきと2人で周ることになった。見かける度に「芹那楽しそうだね」「いいなぁ、私も彼氏欲しい」という会話が繰り広げられた。


 今日は全力で楽しむ。私の中でテーマを掲げ、絶叫系アトラクションを巡った。何度も口から内臓が飛び出るかと思ったが、皐月は一切思っていないようだ。最高に楽しいので、もちろん気にしない。






 スマホを見ると15時の10分前を示していた。帰りの集合時間が迫っている。走ってバスに戻ろうとしていた。すみれさんを見かけるまでは――。


「あれ、菫さんいた……。写真撮りたいな。でも時間無いよね。」

「行っておいで。私服で撮れるの、最後かもしれないよ?」


皐月の言葉が、私の背中を押してくれた。菫さんに駆け寄り、


「こんにちは。写真撮りませんか?」


と声をかけた。頷いたのを確認してスマホを構えた。前回のようにタイマー機能を使って。あぁ、あれからもう1年ちょっと経つのか。撮れたのを確認し「ありがとうございます」と言って皐月とその場を去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る