第24話:灼熱の頂きにて


 岩国がんこくグルザン――灼熱都市ベギオ。


 そこは、一つの死火山を丸ごと都市にしたような見た目の、超巨大都市だった。山の中央に空いている火口を囲う崖側は全て建造物になっており、それぞれから無数の空中回廊が火口の反対側まで伸びていた。


 そして火口の中心には巨大な塔が建っており、空を貫いている。それこそがこの都市の象徴であり、かつ王の居城となっている場所――赤熱塔ヘリオだった。


 その最も頂点――〝赤熱の頂き〟と呼ばれる場所に玉座があった。


「ここまでの道中ご苦労だった。ウィーリャも無事で幸いだった」


 そう声を発したのは、玉座に座る竜人――メルドラスだった。その横には正装をしたウィーリャが立っている。


「こうして直接お話するのは初めてですね、グルザンの王――メルドラス様」


 ドレスの裾を摘まみ、優雅に礼をしたのは化粧を施し、髪も綺麗に整えたイリスだった。側にはアイシャ、背後にはヘルトとアーヴィンドがおり、ヘルトが無理やりアーヴィンドの頭を下げさせていた。


「王には敬意を一応払え。俺も嫌々やってんだ」

「我の作った国なのに……解せぬ」


 二人のやり取りが耳に入り、イリスが笑顔を引き攣らせた。


「すみません……護衛が少々、礼儀知らずで」

「構わないとも。話はウィーリャを通して全て聞いている。面を上げよ、ヘルト・アイゼンハイム、それに――我らが尊敬すべき師――アーヴィンド殿よ。ご存命と聞いて、これほど嬉しいことはない」


 メルドラスの言葉に、仕方なしとばかりに顔を上げた両者だが――


「だったら最初からそう言えよ」

「全くだ。我をなんだと思っている」


 傍若無人にのたまう二人に思わずイリスは振り向いて、殺気がたっぷり籠もった視線を送った。


「お前ら二人とも黙れ! おほほ……すみませんメルドラス王。あの馬鹿二人は気にされなくて結構ですよ」

「くくく……イングレッサの大魔導師と〝黒刹〟を馬鹿扱いとは……気に入ったぞイリスよ」

「はあ……」


 そんなところで気に入られても……と思わなくはないイリスだったが、不快になられるよりは良かったと自分を慰めた。


「さて、本題に入ろう。まずはキエルケ鉱山についてだが……」


 その言葉に、イリスが間髪入れずに答えた。


「勿論、グルザンへ返還いたします。元々はそちらに所有権があったものをイングレッサが不当に奪ったものですから。返還するのが筋かと」

「欲がないのは素晴らしいが……その見返りは?」

「鉱山におけるミスリルの採掘権、それと――我がエルヘイムの支援をお願いしたいと思っています。もうすぐ開催される〝円卓〟にて必ず上がるであろう議題……我が国を独立国として認めるか否かについての際に、賛成側に回っていただきたいのです」


 イリスはニコリと笑ってそうメルドラスへと告げた。


「ふむ……要求は至極真っ当ではあるが……


 メルドラス王がそんなことを言い出すので、イリスが不審に思いながら問い返す。


「何がでしょうか?」

「ふむ……イングレッサ側から聞いた話と、随分と食い違いがあったものでな」

「食い違い……?」


 イリスは、イングレッサという単語を聞いて一気に警戒度を上げた。まさか、イングレッサ側が先に行動しているとは思わなかったからだ。


「……本人から聞いた方が早そうだな。奴を連れてこい!」


 メルドラス王のその言葉からしばらく経つと――後方の扉が開いた。


「ようやく返答がいただけるようですな。これほど私を、いえイングレッサを待たすなど、無礼極まりない」


 そんな事をのたまいながら入室してきたのは――ミルトンだった。


 そして誰よりもそれに先に反応したヘルトだったが――


「落ち着け。今は……彼女に任せるといい」


 アーヴィンドのその言葉で、冷静になったヘルトは今度はアーヴィンドに無理やりに頭を下げさせられた。


 幸い――ミルトンはその視線をイリスに集中させていたせいでヘルトの存在に気付かない。


「っ!! な、なぜ貴様がここにいる!! イリス・リフレイン!!」

「あら、誰かと思えば……イングレッサの道化ではありませんか。そう言うそちらこそなぜここに?」


 イリスが侮蔑の籠もった言葉をミルトンに叩き付けた。


「め、メルドラス王!! これはどういうことですか! 奴は、我が国の領土を不当に占拠する犯罪者ですぞ!?」


 ミルトンの言葉を聞いて、メルドラス王が鷹揚に頷いた。


「うむ。今しがた、彼女から聞いた話が……其方の話とまるで違っていたからな。ここで双方の意見を聞こうと思っている。では、ミルトンよ――貴様がさっき述べたことをそっくりそのまま――ここで述べよ。我が前では、


 メルドラス王のその言葉に、ミルトンが目を見開いた。


 ミルトンの――まるで公開処刑のような地獄が始まった。

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