第10話:ヘルトの見解と考察
風すらも切り裂く斬撃が薙ぎ払われる。
「ふむふむ……やっぱり基本式は俺が昔遊びで作ったやつか。とっくに廃棄されていると思っていたが……」
エメスの左手に装着された二本の杖からは魔弾が交互に発射され、大地を穿っていく。
「動力は魔力と蒸気で外殻はミスリル合金とドラゴニウムか……贅沢が過ぎるな。俺の時はそんな資金なかったぞ」
エメスの巨体と質量によって、ただの突進すらも必殺の技となる。
「しかし、コアは何を使っているんだ? 臨機応変な行動パターンといい、かなり高度な術式が組み込まれているはずだからそれに耐えられるコアでないといけないが……」
しかし、それらエメスの攻撃は全てヘルトに躱されていた。
そもそも、自律式戦術魔蒸人形――エメスは、魔力とそれによって生じる蒸気を動力源としている。そのため、その挙動には全て魔力が伴い、ゆえに、ヘルトにはその動きが手に取るように分かるのだ。
どんなに速く、重い攻撃を繰り出そうと、それが予め見えていれば避けるのはたやすい。
とはいえ、元々インドア派であり、全く戦闘訓練を受けていないヘルトになぜそれが出来るかというと……
『次、右! で、左!』
『十時の方向から魔弾が来ています』
『そこで一歩前に踏み込めば――懐よ』
ヘルトの脳内にイリスとアイシャの声が響き、彼女達から送られてくる動きをトレースしていたのだ。イリスは感覚を共有し、アイシャは千里眼によって、周囲の状況を把握していた。
イリスもアイシャも近接戦闘にはついてはかなりの腕前らしく、その動きに無駄はなく指示も的確だった。あと傀儡系魔術の応用で、それ通りに身体を動かすだけだった。
いわば、イリスとアイシャがヘルトを遠隔操作しているようなものだ。
おかげで、ヘルトはまるで踊るかのようにステップを踏みつつ、数体のエメスの猛攻を全て避けていた。
「即興にしては、中々に使えるな!」
一機のエメスの懐に飛び込んだヘルトが顔を歪ませつつその右手をエメスの外殻へと当てた。
「ったく。解析したら、ほとんど俺の術式ばっかりじゃねえか! つまらねえ。クソつまらねえなヘンリック!」
ヘルトが魔力を右手へと込めた。
それはもはや魔術ですらない――ただただ膨大な量な魔力を流し込むだけの行為。
「ガガガガッ……ぷしゅー」
だが、エメスの魔力回路がその魔力の奔流に耐えられず、破壊されていく。結果として、エメスのレンズの赤い光が消え、各部から煙と蒸気を上げながら沈黙。
一機で数十人の歩兵を駆逐できると言われるエメスが一瞬で無力化したのだった。
『あんた無茶苦茶するわね……』
『力技が過ぎます』
「はん、オーバーフローに対するセーフティもかけてない方が悪いんだよ、見掛けだけは立派だが作りが甘すぎる」
目の前で崩れたエメスを見て、ヘルトがため息をついた。自身の魔力を流したことで、エメスの構造を全て把握することができた。
そして、全ての疑問が解けた。
ゆえに、ヘルトは笑みを浮かべる。
「だが、一点だけ評価してやる。なるほど、コアの問題をそうやって解決したのか。くはは……いいねヘンリック。まだまだ俺には届かねえがその手段を選ばないやり方は、俺だけは評価してやる」
『何の話? まだまだ来るわよ!』
『六時から二機来ます! 更に、【噴進爆破】が再び発射されました』
ヘルトが素早く周囲を確認する。
動いているエメスは六機。更に、飛翔体がこちらへと迫っている。おそらくエメスの外殻はその爆撃に耐えられるように設計されているのだろう。
人形を突撃させてそこを爆撃するという、なんとも非人道的な戦法だが、ヘルトはそれを評価した。
「悪くない。悪くないが……未調整で無理やり動かしたのかなんだか知らないが、全部が雑で甘い。何より――相手が悪かった」
ヘルトが不敵に笑うと、右手を空へと掲げた。その手に紡がれるのは複雑な式を宿す大規模な魔法陣。
「ヘンリック。お前の敗因は結局どこまでも俺の遺産に頼ることでしか、こいつらを動かすことが出来なかった点だ。だってよ、こんなを俺の前に出すなんて、こう言っているようなもんだぜ?――〝どうぞヘルト様、
魔法陣から無数の魔力の奔流が溢れ、エメス達を襲う。
そして同時に【噴進爆破】が着弾――轟音と爆炎が巻き起こった。
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