余韻
第87話
「こんなの私がいた地獄のような場所ではないわ。」
こんなことは言いたくないが今まで砂漠のような景色しか見てこなかった故郷が緑生い茂るようになっていた。
それはまでは良い。
キチンと開拓を仕切った証拠だからそれはまだ納得できる。
飲み込める内容だ。
だがこれはなんだ。
「…私のお屋敷って小さいのかしら……………。」
堅牢に聳え立つ城に城壁、さらには水路のようなものすら見える。
最新鋭の都市であるはずの王都の中でもほんのひと握りしか住めないとされる上級貴族街にしか無い品々が田舎の中でも最底辺に当たるような開拓村であるのはもう自分の故郷では無いと宣言しても良い気がした。
「もう、村じゃ無いわよね。一種の城塞都市よね。それとも国と呼んだ方がいいのかしら。」
戦争では世界樹教を打ち倒して独立宣言もしているし王国もそれを認めたことから小さな国として呼んでも良い。
でもここまでの設備を持っているのだから成り上がっているにも限度ってものがあると思う。
商人のおじさんに聞いた話によれば一切の援助などは受けていないらしい。
せいぜい言っても商人のおじさんから種を買うくらい。
不毛の土地の先にあった海なんかも国土にしているみたいで完全な自給自足が可能らしい。
「村長がかなり頑張ったらしいけど建物がほとんどユートとお義父様がやったって聞いたしね。」
今回赴いた告白が成功するかはわからないけど成功しないと思って成功することはほとんどないと思うから成功すると思ってお義父様と心の中で呼んでいた。
「でも本当に様変わりしているのよね。斜面にある畑とかは変わっていないけれど緑が凄いわね。」
いつも見ていた畑でさえ雑草なんて生えていたことが無かったから不思議でしか無い。
もう故郷の面影すら残っていないのかと思うと寂しくも思う。
都会に憧れて村の外に出た私だったけれども生まれた土地はやっぱり特別だったみたいだ。
「あら、マリアンヌちゃん?」
「え?」
不意に見知らぬおばあちゃんから話しかけられたから頭の中が混乱した。
「ほらマリアンヌちゃんの隣の畑のおばちゃんよ。まあ出て行ってからは10年も立っているから覚えていないのは無理もないけれどね。」
「ご、ごめんなさい。」
「良いのよ。マリアンヌちゃんはユート君しか見てなかったしおばちゃんたちも微笑ましく思っていたからね。もう開拓村の人たちは歳を取っちゃって亡くなった人も数多くいるけれども今でも貴方の帰る場所はあるからいつでも戻っておいで。」
この暖かみある言葉は故郷に帰ってきたと思える一つの懐かしさがあった。
「うん、ただいま。」
「それでマリアンヌちゃんはユート君のハート射抜けるのかな?」
グサッ!
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