第86話

なんか前世の俺と変わって戻ったら幼馴染にキスされて告白?されたのかな?

マジで意味わからん。

こんな戦場のど真ん中でするとか危機管理能力ないんですか?

今あなた兵士たち撤退します宣言しましたよね。

引率しなくてもいいんですか?

矢に当てられて死にますよ彼ら。

あ、今は関係ないと、キスに集中しろと。


口内を蹂躙されていたのだがシチュエーションとしては最悪の最悪かもしれない。

戦場のど真ん中の殺伐とした空気で爆発音なども鳴り響く中行われるキスにムードもヘッタクレもないし歯磨いてねえだろって言いたくなるくらいの歯垢が残っているから不快である。


舌で歯や歯茎をなぞられるたびに舌苔が落ちてくるし大人のキスをするときはキチンと歯を磨けってピグミーも言ってたぞと言いたくなる。


ピグミーはピグミーで敢えて空気を読んでいるのかジト目ではあるが手は出してこなかった。


やっとキスが終わると


「私はユート、あなたのことが結婚してほしいくらいに大好きです。」


と言ってきたのだから。


「嫌だけど?」


と断ることにした。


「ど、どうしてですか。」


「まず、」


「まず?」


「ここは戦場、キチンと部下を引率すべき場所だし撤退命令を出したのがマリアンヌなら尚更自分で率いて軍を下がらせないといけない。大勢の命がかかった仕事を任されている責任者なのに私的な行動を優先させるの人とは結婚したいとは思わない。」


「ゔ。」


面と向かって言われたことにショックを受けて思わず膝をつくマリアンヌ。


「で、次にキスをするにしても相手の合意をとっていなし、ここ最近ずっと戦場にいたから歯を磨いていなかったんだろう?そんな状態でキスをされてもオレのことを歯磨きの代わりに使ったようにしか思えなかったぞ。」


「ご、ごめんなさい。」


今度は涙目になり今にも決壊しそうな声音を見せていた。


「さらに言うとこのムードのヘッタクレもない戦場でキスをされて嬉しいと思うか!吟遊詩人の話オレよりも熱心に聞いていたじゃないか。基本的に戦場に入る前と終わった時に恋人がキスをしていくとかそんな感じで言っていただろう。基本戦闘真っ直中の戦場でキスをする話なんか存在しないわ!」


ガックリと項垂れた。

そしてポタポタと液体の溢れる音がした。


「キスをするにしてもお前が村に帰ってきてからだろうにキチンとやり直したいのなら撤退して生き残るんだな。」


「……ふぇ?」


顔を見上げても既にユートの姿は見当たらない。

でも先程の言葉を飲み込んだ時にまだ自分はやり直せるかもしれないと思った。


希望を植えつけた本人は世界樹教の兵士たちを蹂躙して行っているのは見えた。

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