第82話

世界樹は地中の奥底深くで機を伺っていた。

精霊界に行けば完全復活はできると感じておりこの身体を捨て去って精霊界に旅立つため今まで規制させてきた自分の分身たちを一点に集中させる手筈を整えていた。

今までまばらだった個体を一つにまとめ上げてしまったのだ。

それを見逃すほど開拓村の村長は甘くはなかった。


「ほっほっほ、甘いのう。砂糖菓子のように甘すぎるのう。」


一匹のスライムが土の隙間からどんどん侵食してきた。

一点に集まった瞬間を狙って行われた捕食行動は一点の隙も無く包み込み強力な酸を生成していく。


「surasura!」


「やるのじゃスラ坊。」


世界樹も何もせずにやられるわけにはいかない。

外皮をアルカリ性にして強力な酸に侵される時間を稼ぐ。


「王水にするのじゃ。」


あまりの生成速度に殺される可能性がとても高いと判断した世界樹は自滅覚悟で一点に根を張りドリルのようにスライムの幕を貫いた。


「ほう、これは逃げられたかのう。」


「sura~。」


「よいよいそうしょぼくれる出ない。後は精霊界にはきちんと父の背中に成れた奴がおる。」


ずっと父親らしいことをしていなかった一人の男は今では一人前の父親と呼べるような大きな背中が見えたのかもしれない。


「仕事をする父親は大きく見えるからのう。まああやつの場合はとても長いこと時間がかかってしまう気もするがな。」


村長は子どもこそ居ないが宮廷で使えていただけのことはあり父親というのを何人も見てきた。

理想の父親と呼ばれるような人物もいただろう。

だが世間一般に理想の父親と呼べる人物に対しても理想の父親とは思えなかった。


「父親、親とは上司と部下のようなモノじゃ。きちんと子どもの責任を背負える。責任が誰にあるのかを教えることが親として誰よりもすべきことだと思っていたよ。儂にはすべて面倒だったから結婚なんてしなかったのじゃがのう。」


理想の父親ってものに成れそうにないから結婚しなかった。

村長の目指した理想の親とはどんな言われをしようとも子どもに責任を教えていくことをあきらめない人物。

ユートを育てていたがとても大変だった。

理想の父親と言えるモノには成れなかったがとても楽しい日々だったと思う。


知らないことを教え、気付かせ、考えさせる。


大人になっても楽しめる基礎を教えていくのは自分の初心に帰ることはできた。


「もう子育てはこりごりかのう。」


もうすることはないだろが、最後の最後に取らねばならない責任がある。


「人生最後の大仕事、楽しみにしてるぞい。」

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