第83話
精霊界に命からがら逃げ込んだ世界樹は弱体化していた。
「オレ、オレ、チイサイ、チイサイ、コノママ、コノママ、アイツラ、アイツラ、コロサレル、コロサレル。」
今ではそこらに生えている今にもなくなりそうな虫食いのある草でしかなかった。
「デモ、デモ、オレ、オレ、オオキク、オオキク、ナレル、ナレル。」
精霊界の隙間を縫えば自分は大きくなれるとそう思っていた。
だが一向に大きくならなかった。
それどころか身体がボロボロと崩れていく。
「ナンデ、ナンデ?」
「ここ精霊界ってやつか。初めてきたがここまで霊体が多い場所は初めて見た。しかもここに来る霊体は酷く脆い。特にお前みたいなやつは俺の格好の的だぜ。」
なあ世界樹様。
見上げればそこには今の自分と比べ物にならないくらい強靭な身体を持った天敵とでも呼べる存在が立っていた。
このとき世界樹は初めて自分の無知を呪った。
自分が確実に死ぬ未来しか見えない。
恐怖の自覚と何もできない無知さ
どうにでもなると思っていた過去と今の自分への愚かさを呪った。
今まで自分が馬鹿にしてきた人間と同格ではないか。
「全く、確かにここじゃ俺の職種が適性だろうが本当に人使いが荒いぜ。村長もユートも。」
もし世界樹と人間の違いがあるとするなら、彼らは家畜を買う時の危険性を理解していることだろうか。
殺されると理解すれば暴れること。
痛みを伴うことをすれば反撃にあうこと。
貧しくすれば現状を変えようと行動に出ること。
富を与えれば付けあがること。
それらすべてを考慮して決して仲間に知られないように対処するのが人間だ。
世界樹は欲のあまり隠すことをしなかった。
「一応死にゆくお前にも言っておくが俺の職業は宮大工、神の根城を作り護るモノだよ。だからな、霊体に関しては誰よりも知っているんだよ。先祖代々住み着く霊体を自分に纏わせたり悪霊を退治することができる。すまないがお前のことは俺たちの土地にとっては悪霊に成りうる存在だ。だからもう二度と悪さをしないように神になってもらうぜ。」
世界樹は静かに、静かに、終わりなき終わりを手に入れたのだった。
「全く、親父って言ってくれるようになったら自分の道を突き進み目標を成し遂げた漢になってるんだからでっけえ背中を見せたい父親心を通り越していきやがって。ま、色恋は弱そうだからマリアンヌちゃんが適度にブレーキかけてくれると俺としてはうれしいんだけどな。」
自分がブレーキに成れるとは思っていない。
むしろアクセルを踏み入れニトログリセリンをガソリン内部にぶち込むような人間だ。
「うちのカミさんは転生したから結婚は前世だけっつうし、また新しく恋を始めても良いもんかね。息子も1人立ちしてるし潮時か。」
ただ、カミさんほどのいい女に巡り合えていないので再婚できるかどうかは別なのだが…………
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