第69話
「はじめからわかっていたことだ。」
ただ一人腹心の部下たちと共に撤退した王弟たちはのちに語った。
「我が姉が最も得意としていたのは水魔法と風魔法の混合魔法、嵐魔法。」
戦場は大いなる風に見舞われる。
その風は時に恵みとなり
その風は時に文明を嘲笑う神の息吹をもたらす。
「姉上はその魔法を持って数々の村や強力なモンスターの脅威から人を救っていた。それが敵に成ったらどうだ。神でも相手にしているような状態だ。私は勇者を直々に鍛えたつもりではあるがあの娘はまだまだ淡いヒヨッコ。戦場で覚醒もしては居るが明らかにアリとゾウが戦っているようなものだ。スライムとドラゴンが戦ったらどちらが勝つかはわからないがアリとゾウなら必ずゾウが勝つ。そのくらいには圧倒的と呼べる戦況だった。」
戦場では死人こそ出なかったものの多量出血が起き血液を浴びたものが二次感染を起きていた。
損害は増える一方、回復役の魔法使いたちもヘトヘトになり魔力を回復させる薬も無くなり、感染症を抑える薬もごく僅かとなった。
もし自分たちが戦いに加勢していたら今度こそ兵士たちの死体の山と血の海が広がっていたと思うとしみじみ王弟は語っている。
「もしあの状況を止められるものが居るとするならば神話の時代で王族のみが知ることを許されているボディビルドトレーナーか姉上の息子のスライムトレーナーくらいのモノだろう。まあスライムトレーナーがけしかけていたのだが、彼もまた農民としての職種とスライムトレーナーという極めて稀有なトレーナー系の職種を最大限生かした鍛錬法をしている。あれほどの武人はわが軍にはおらぬ。冒険者の中にも1時代に一人居るかどうかの領域と言えよう。」
トレーナー系の職業とは何かと王弟に問うた。
「トレーナー系の職業とは鍛える、鍛えさせることに特化した一個小隊を一国軍並みの化け物に変えてしまう馬鹿げた職業だ。スライムトレーナーについては私は詳しくは知らないがスライムの練度と言いアレ一体でドラゴンを相手にしているような気分になるさ。しかも個体ごとに全く違う分野を育てているのだから大したものだ。同じメタルスライムですら斬撃をこなす個体と打撃をこなす個体、毒を操る個体と千差万別あるのだから恐ろしい。世界樹教の奴らからは何人か死人が出たらしいが我々の被害が病人だけで済んでよかったのかと言われればそうではない。」
何故?国民が死なないことは良いことなのでは?
「確かにそれは良いことではある。だが怪我が治るまでに時間もかかるし復興も困難を極めていってしまうのだよ。怪我人を看護する人材が必要になるからな。何より彼らの攻撃は死亡させることよりも怪我をさせることが目的だった。我々は今を生き残った代わりに未来の苦痛を手に入れたのだよ。」
でも一年足らずで復興したと聞きましたが?
「あやつに賠償金をたんまり盗られてな。」
あやつ?
王弟はその辺りは自分で調べろととある作家を追い返した。
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