第67話

「Sura!」


ピグミーは鳴き声を出すと身体を変化させた。

グラマラスなわがままぼでぃに変化していく。


「久しぶりね愚弟…それに世界樹の盲信者様方。」


深紅に染まった血のような髪は地面まで届き、傾国の姫とまで謳われた顔はそのままに今死者が舞い戻った。


「ああ、あと私はまだマリアンヌちゃんのことをユートに渡す気が無いからね。」


愚弟と呼ばれた総大将こと王弟は大切にしていたぬいぐるみを当時の王妃が奪わってしまったときに王妃様がしこたま怒られたなと関係ないことを思い出していた。

そのころの年齢が確か15歳で未だぬいぐるみが無いと寝られない姉に対して母上がとてもではないが王族として表に出せないと思い取り上げたのが始まりだった。

だが、それらを加味して理路整然とぬいぐるみのすばらしさを説き伏せて尚且つ王族としての振る舞いに対してもモノを申すようになっていた。


もちろん大喧嘩ではあったがあの姉が知恵が回る回るでどこからか持ってきた国の伝記を持ってきては初代国王も20になるまでぬいぐるみが放せずに寝ていたことを説き半ば無理矢理納得させていた。

彼女が関わると彼女中心に世界が回るとまで言わしめた、あの大論争によって俺は王位継承権なんて無意味なものだと良く分かった。

継承争いなんてするもんではないと姉と同じ年になってから初めて理解できた。

姉には叶わない。

それは兄者、国王も一緒だった。


「この子はまだまだ夢中になっているモノがあるし、それからきちんと奪ってみなさいな。」


そういって彼女のモノを奪えたのは俺は二人しか知らない。

一人は姉上の夫のユウゴ

もう一人は今は開拓村で村長をやっているものだ。


彼らはある意味で夢追い人。

勇者を鍛えた私から見てもあの手の夢追い人到底超えられるようには思えない。

夢を追うために一国の軍隊すら平気で退ける彼らに対して俺は無力しか感じられなかった。


姉上の息子に対しても同じことが言えた。

誰よりも真っすぐな眼をして目標に突き進む。

そしてその目標は決して枯れ果てることが無く永遠に追い続けられる、姉上と夢追い人たちを掛け合わせたような生涯独身貫いて馬鹿をやっていそうな男に見えていた。


勇者が結ばれるのは初恋の人物だけとは言われているが難攻不落の要塞さえ可愛く見えるそもそも攻撃をさせてくれないような城を目の前にしているようだ。

これは今世の勇者は結ばれることは無いだろうと思いながら再度姉上の転生体のスライムを見る。


相変わらずの独占欲。

親バカになることは決定事項だったけど今は転生したから息子と結婚するとか言いそうだな。


久々の姉に対して言葉をかけることは無い。


なんせ、触らぬ神に祟りなし、男は皆弱い生き物だ。

強い奴らはほんの一握りで良い。


俺は、まだ余生を過ごしたかった。

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