第66話

かつてユートの開拓する前の不毛の土地は死体が全て砂と化す土地だった。


その正体は世界樹の根が栄養を吸収するために飲み込んでいるだけだった。


だがその吸収をする前に吸収したモノたちがいる。


「スライムってのは不思議だよな。死んだモノたちの意思を継承している奴らもいるんだから。」


ユートがスライムトレーナーとしてピグミーに促したのは血の継承。


彼女が最初に得た血液、それはユートの母親の血だった。


そしてユートの母親の職業とは


「我が王国の前国王の第一王女の適性職業は開拓民。当時第一王女を唆した罪として奴を開拓村に送り王女を王城に戻してくることという流刑をしたのだが……。」


だからこそ開拓民になった。

否、開拓村の一員となったのだ。


「ユウゴという冒険者も派遣したが彼も開拓村の一員になってしまった。そして奴から手紙が来たときは驚いたものだ。」


村長からの手紙を読んだのは紛れもない総大将にして王弟。

第二王子だった人物。


「まさかかの姉上が相手とは、これは私たちの負けは決まったも同然だ。撤退の用意を迅速にしろ!」


王子にとって姉とはどのような人物だったのか。

一言で言えば暴君、破天荒と言った言葉が当たるだろう。


そして誰よりも強かった。


「総大将?かつての第一王女とはどのような方だったのですか?」


「誰よりも強く、誰よりも自由な御方だった。そして、あの御方が居るだけで王城の全てが回る。」


「全てが回る?」


どういう意味なのか解らず問い返す軍師。


「そのままの意味だ。この国の今の学園を仕切る反世界樹教派のエルフも、今までききんが起きることなく過ごせていたのもあの御方のおかげなのだ。我が姉上は兄上や私の才が足元にも及ばぬほど大きな存在だ。流石に不毛の土地ではその力を発揮できなかったようではあったが幸せに死んだそうだ。だが姉上に唯一心残り、化けて出てくるほどの未練があるとすれば我が子だろう。」


誰よりも突き進むことが好きだった姉が腹を痛めて産んだ子どもを可愛がらない筈が無い。

死体をこちらに送るようにも頼むことはできたかもしれない。

ユートと言う人材を王都に送ることができたかもしれない。


だが、遺言を聞けば誰もその気は失せてしまった。


「私はね。自分たちで建てた国が欲しいの、先祖代々の国なんて面白くないじゃない。だって先祖の超える偉業を成しても先祖より祀られることなんてないじゃない。」


彼女の出て行った言葉。


そして言伝で聞いた彼女の遺言。


「私が成せなくてもこの子が成せるように礎を築くわ。いいえ、この子は誰よりもロマンを追い求めるユウゴ以上のダンディでハードボイルドなおじさまになってくれるもの。」


ったく、何がダンディでハードボイルドだ。

だけど姉上の言う通り誰よりも大馬鹿者に育っているぞ。

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