第65話

「世界樹は、農家にとっての雑草と同義なのさ。」


メラメラと燃え上がる世界樹を目の前にまるで暖炉を囲い昔話を子どもに聞かせる老人のような遠くを見据えて語る。


経験を積めば、賢者


「作物からの栄養を根こそぎ奪い取り作物を荒らす。」


知識を高めるのなら、学者


「もちろん世界樹の実は美味しいとエルフたちがこぞって食べていた。」


経験を知らずして知識を高めぬのなら、愚の骨頂


「だが世界樹はその莫大なエネルギーを持つ実をはやすために不毛の土地、すなわち一国に匹敵する土地の栄養を食いつぶした。」


してどちらも高めたのなら、導師と呼べるだろう。


「なあ彼らがそれに気づいたとき止めたモノはいたさ。だがお前らは今を精いっぱい生きることを拒んだ!世界樹教!そして王国軍!貴様らは当時の勇者の思い人の願いを裏切った!」


初代勇者は思い人と結ばれることなく生涯独身を貫いた。

初代勇者の思い人は他の女性と結ばれたとも勇者が迎えに行く前に死んだとも言われてきた。


「そ、それは…………。」


初代勇者が世界樹に立ち向かったことをひた隠し神聖視だけはさせてきた世界樹教。

初代勇者とその仲間が作り上げた王国。


両者はその真実を知っていた。

いいや知らなくてはならない事実だった。


「初代勇者の思い人の職業はボディービルドトレーナー。そして俺はスライムトレーナー。ここまで言えばわかるな。」


両総大将及び幹部たちは目を見開く。

トレーナーという職業は今の今まで発言するものはおらず。

長い歴史からもその希少性から職業の特性も決して知られることは無かった。


近しい者たちを除いて。


「かつて世界樹教は勇者たちと親しかったエルフが立ち上げた宗教だった。知らない筈ねえよな。今までトレーナー系の職種に就いた者たちを殺していったのも世界樹教なんだから。」


今度は王国軍が目を見開く番だった。


「でもな、トレーナー系の職業に限らず全ての職業は遺伝なんだぜ。それに俺の村の司祭様は村長の息の根がかかった人材だった。末端にも気を使わないとすぐにボロがでるぜ。」


トレーナー系が発現したのを殺していたのは事実だがあくまでもシングル適性職の中でも次に職業適性として高かったものを選んでいた。

だからバレることは無いと高を括っていたのだろう。


しかし今はそれではない。


彼の言った一言が世界樹教の軍を困惑させた。


「ま、まさか。貴様、王国の、王族の血筋!?」


トレーナーは勇者と結ばれていた。

だがその後すぐに死に勇者は子どもを建国した仲間に託したという。

子どもは王族と結婚し今尚脈々と血統を繋いでいる。


「俺の母は既に不毛の土地に飲まれた。だがその意思はこの場に健在している!」


赤きスライムが宙を舞った。

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