破章
第60話
隣国との戦争は世界樹教の狂信エルフが指揮を取る戦争だった。
世界宗教そのものとの真っ向からの全面戦争、味方だったモノが敵になることも日常茶飯事となるこの戦場では希望はすぐに絶望に変わる。
「なんとか世界樹教でない奴隷となった人達を仲間にはできているけど…。」
「このままではジリ貧だね。キチンと私たちの代から世界樹教と戦っていればこうはならなかったかもしれないが……。」
既に後の祭り。
国という国が敵に回りつつある。
王族や一部の貴族は薄々世界樹教の間違いに気が付いていたのかこの戦場を死に場所に決めるが如き威勢で加勢してくれるがそれも時間の問題にしか思えなかった。
敵を切る度に私は正しいことをしているのか疑いそうになる。
でももし疑ってしまったら今までやってきたこと全てが無駄になってしまうから決して口にしてはいけない。
思ってはいけない。
そう言い聞かせなければ私の心は前向きにならなかった。
「あれ?私は何のために戦っているんだっけ?」
あまりにも疲弊しきって敵を切りかかろうとしたときに、心の最後の防壁が崩れ去りそうなときに、奇跡なのだろうか、でも奇跡に思えないくらいの懐かしさが私の身体に心に注がれていった。
「ちゃんと手紙を読み終えてきたよ。ったく開拓で忙しかったってのに無駄な時間かけさせやがって。」
その注がれたものはいつも変わらなくて、誰よりも私のことを見てくれなくて、自分の事ばっかりで、多分、私が世界で一番大好きな男の子が響き渡る声を注いでくれた。
「俺はさ、お前が王都に行くとき悩んだぜ。でもさ、ここは故郷だろ。勇者の世界はそんなにも大きなものしか見てこれなかったのか?」
勇者という使命がとても大きく過ぎるモノだと勘違いし過ぎていたとでも言うかのように農民の彼は勇者の私よりも勇者に見えた。
「農民ってのはさ未来を想像もするけど今を生きていくので精一杯なんだ。勇者はいつも明日しか見れないのか?俺の知ってる幼馴染は未来も見ていたけど今を思いっきり楽しんでいるように見えたのは気のせいだったか。」
「そ、それは……」
踵を返すように幼馴染は私の人生の黄金期を思い出させてくれた。
そうだったいつだって未来の結果はわからない。
だから今日を、自分の最大を引き出すんだ。
それを伝えてくれたのは他でもない彼だった。
農民とは
誰よりも生きることに執着し、誰よりも縄張りを護ることに執念し、誰よりも未来への変化を考える。
彼らは農民、武術の達人でも何でもないただの雑兵の一人でしかない。
だからこそ彼らは生きることに執着する。
「ちょっくら喧嘩しに来たぜ。国王陛下。」
誰よりも国王に近く国王に遠い人間が戦争を壊しに来た。
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