第39話

38 0616

「机上の理論って何?」

「机上の理論というのはのう……生えとる…………。」


村長はユートの後ろを見て放心した。


「生えてる?」


後ろを見れば若木と呼べそうな木が生えていた。


「これなに?」

「木だな。」

「木じゃな。」

「木?家の建材の奴?」


体長2mの若木はスミスのすぐ下に生えていた。


「これなら城が全て経つぞ!」

「ユウゴちと待たんか。」

「何故止める村長。」

「衣食住を整えるは確かにええじゃろ。じゃがワシらはそれ以前の生をできとらん。まずは生じゃ。」

「生?」

「そうじゃ、まずはこの不毛の土地へ挑戦、反逆しなければ意味がなかろうて。」


くっくっくと悪役のような笑い方をしていく村長。


「村長、普通に俺らは開拓するだけだよな。」

「くっくっく、どうじゃろうなぁ。」

「余計なことするんじゃねえぞ。」

「保証はしかねるがのう。」

「いいか、ユート村長がくっくっくって笑う時はいつも碌でもないって思うことの数倍碌でもないことが起こるぞ。」


村長に長らく付き合ってきたユウゴは村長の特性を良く知っていた。

村長は法にさえ抵触しなければ倫理などは捨て去る。


理路整然と正しさのみを追求した村長の適性はスライムテイマーと村長そして研究者、混ぜてはいけないものを混ぜたような適性だった。


「村長って何者なの?」

「村長はその昔この国初のトリプル職業適性の宮廷技術者に選ばれた人物だよ。」

「王都って楽しいところって言ってたけど村長がわざわざこっちに来たってことは楽しくないの?」

「いや村長は王都でやらかし過ぎてこの開拓村の村長をするように命じられたんだよ。」

「どんな悪いことしたの?」


ユウゴが本人の居る前で大きな声で話しているからそこまで気にしてないのだろう。

村長も続けろというように偉そうにうんうんと頷いている。


「村長がやらかしたことは王宮内で先輩の宮廷技術者に向かって半殺しに成るまで頭を殴り続けたんだよ。」

「そっか、でもトリプルなんて初めて聞いた。」


「今まで聞かれんかったから答えなかったがのう。居るには居るんじゃよ。二つですら手に余る適性職をさらに手にする人間は。」


「面倒くさそうだね。」


「そうじゃのう面倒じゃ、じゃが面白いことこの上ないわい。この村だってそうじゃよ。他の土地に無い面倒事があるから面白い。」


「面倒くさいけどマリアンヌのおままごとは楽しくなかったけどね。」


「ほっほっほ、それはまだユートが本当の面倒くささを知らんからじゃよ。」


そう言ってみんなで帰って行った。


笑いながら開拓を続けて1年を迎えたとき、変化は訪れた。


「……成功だ…………。」


この開拓村の悲願、一年以上の植物の根付きが成功した。

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