第30話
「僕が女の子だったらつける名前?」
「ああ、母ちゃんと決めていたんだ。男の子だったら俺が付けて女の子だったら母ちゃんが付けるってな。」
「その名前がピグミーなの?」
親父は本をひょいと取り上げるとパラパラとめくって
「ああ、そうだ。これはだいぶ古い神話のことを描かれているな。」
「親父は読めるの?」
「冒険者としての間柄、遺跡に行くこともあってな色々考古学も学ぶことをしなければならなかったからな。これは王国ができる前の遊牧民族の間で使われていた文字だ。」
親父は昔を懐かしむがごとく遠い目をしながら楽しそうに語りだした。
「本来遊牧民族は定住地、ようは家を持たずに旅をする民族なんだが彼らは昔ある場所に集まっていたんだ。」
「集まる?いつも一緒じゃないの?」
「全員が全員一緒に旅をするわけじゃないんだ。全員のうち誰かが生き残るために散り散りに別れて生きていくことを決めた家族も居るってことだけ覚えておけばいいさ。」
ユートの身近だと丁度該当しそうな人物に心当たりがあった。
「王都にいったマリアンヌみたいな感じ?」
「そんな感じだ。だけど遊牧民たちは1年に一回だけ帰る場所があったんだ。それが父ちゃんが言った遺跡でそしてその本を拾ったんだ。」
「家が無いのに紙を使うんだね。」
「それは羊皮紙と言って動物からできた紙だ。遊牧民でも作れる。それに父ちゃんがいつも使っているジャガイモのツルからできた紙とは違ってかなり丈夫なんだぞ。」
確かに村長の家にある本の大半は紙の質が違う。
親父は畑の収穫率などを調べるときに紙を使っているがどこから持ってきているかの不思議に思っていたが自分で作っていたらしい。
「話を戻すが遊牧民たちが1年に一度集まる場所は数々の壁画描かれているんだ。その土地で起こったこと、この川には何が居る、この草原にはこんな草が生えている。
子孫に残すためのメッセージを分かりやすく伝わるように絵と文字の両方を用いて描かれていたんだ。
それが今から数千年前の話なんだぜ。
すげえと思わねえか?数千年も前のことが今でも残っているなんてよ。」
「うーん?」
冒険者はロマンがあることを伝えたいんだろうけど僕の心はずっと開拓に傾いたままだ。
「そしてユート、お前のやっていることにもロマンがある!俺たちが子どもに名前をつけようと思った時、デッカイ夢を持てる子に育って欲しいって願ったんだ。ピグミーっていう名前もな、神様だから付けようとしたわけじゃないんだ。」
「?」
「誰よりも人を愛してほしいっていう意味も込められている。もちろん俺がユートって付けた理由は誰よりも勇気を持って欲しいって意味さ。」
「でも勇者じゃなかったね。」
「マリアンヌちゃんの方が勇気があったな。」
ガハハと、高らかに親父は笑った。
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