第21話
村に着くと親父がすぐに駆けつけてくれた。
「ユート!大丈夫か!!」
柔らかいお腹の感触を全面に押しつけられると流石に苦しい。
「親父苦しい!」
「馬鹿野郎背負われて帰ってきたんだから心配くらいさせろや!」
「酒を辞めれたらいいよ。」
物心つく前から村長の家に預けられた理由がこれだった。
妻が死んだのだ。
愛する子どもは居れど最初に愛した妻が死んだ。
これで狂わない夫が居ない筈が無い。
どこからか酒を買ってきては飲んだくれる日々が続いていた。
時には街に繰り出して酒を飲み潰れるまで酔っぱらう。
「おめえはますます母ちゃんに似てきたな。」
「ん?」
「なんでもねえよ。それに酒はここしばらく飲んでねえだろ?」
「食器棚引き出し奥の二重底。」
以前家の整理をしていたらふと見つけた食器棚の奥にあった二重底の中に巧妙に酒を隠し持っていたことを知っていた。
というか赤スラ坊が見つけてきた。
「う。」
「隠すだけ無駄じゃな。親がダメになれば子は自然としっかりとなるものじゃ。」
「んだよ。村長まで……。」
「この子はな。おぬしが飲んだくれている間人生の設計をきちんと考えていたのじゃよ。」
親父が真面目になったのはここ最近だ。
それだけにユートのやっていることも開拓の真似事程度にしか思っていなかった。
だがどうだ、硬い地面を耕し作物を植え開拓に関する知識を高めている。
もちろん不毛の土地という土地柄もあって未知なる部分の方が多い。
だからこそ村長のように実験をしている。
そしてどのようにして生き延びるか、次世代に残す術を身に着ける。
自分は手綱でも良い。
手綱が途切れても良い。
今を精いっぱい生きるために未来に変化を加えようとする努力が必要不可欠だった。
ここの開拓民は半ば諦めているものも多い。
そもそもこの不毛の土地は幾たびモノ国が開拓を試みて敗れ去った土地なのだから。
一旗揚げれば一国の城主にすらなれると謳われるこの土地で必死に生きようとしていた。
そして自分もユウゴもまたその一人だった。
「まったく、夢追い人なところだけはおぬし譲りだが現実主義なところは母親譲りじゃよ。」
ユートの母親は賢い人だった。
自分の適性職業を知るや否や故郷を飛び出しこの開拓村に来たのだから笑えたものだ。
「ユートがマリアンヌちゃんの誘いを断ったのは何も開拓したいからではないからのう。」
ユートの適性職業は二つ。
しかも片方は農民というなんのとりえもない職業だ。
しかし勇者のような曖昧でどのようなことができるかわからない職業、正確にはお伽噺でしか語られない職業と共に生きるほど愚かでは無かった。
確かに情はあっただろう。
だがひと時の感情に流されるほど人生が甘くないことは理解していた。
絶対に後悔できない選択をしたかった。
それがユートの意思だった。
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