「冬眠」したらデバッグモードになったので開発画面でスキルを自作しました ~管理者よ、お前一度もテストしてないだろ! 冬眠スキル使った瞬間にデバッグモードに入ったんだが?~
12、今度はオーク相手に、無双展開してみる
12、今度はオーク相手に、無双展開してみる
オークの集落。南側にある入り口を護っている2体のオークは、そこに近づいてくる二人の人影を捉えた。
一人は中肉中背で黒髪の男。"平凡"を絵に描いたように、特徴が無いのが特徴な男だ。
もう一人は金髪エルフの女。体つきや容姿は可憐さを思わせるが、その目には異様な光を宿している。
徐々にその女が歩を早め、一人で2体のオークに近づいてくる。
「プギィィィィ!」
警告のように、オークがエルフ女であるゾォンに向けて咆哮する。
「顕現せよ、アースメイス」
平凡男こと、トーキの詠唱に呼応し、ゾォンの目の前に槌の柄が出現する。
ゾォンは柄をガシリと掴み、力任せに地から引き抜く。
大地が裂け、ゾォンの身の丈を超えるほどの巨大な鈍器が姿を現す。彼女はそれを軽々と頭上から振り下ろし、2体のオークに向けて構えた。太陽を背に、ゾォンは雄々しく立つ。
「勇者パースかよ」
「プギャァァァァァ!!」
オーク2体が奇声を上げつつ、ゾォンに襲い掛かる。彼女に向け振り下ろされる2つのトゲ付き棍棒。
棍棒が急速に接近する。しかし彼女は避けず、むしろ自分から接近していく。トゲ付き棍棒が彼女の顔を叩き潰す、その寸前、巨大な重量物が通過し、彼女の目の前からオーク2体が消え去る。
残像すら映さない速度で振り抜かれた槌により、オーク2体は粉々にひき潰され、ただの赤い染みへと変じていた。
悠然とした態度で集落に足を踏み入れるゾォン。そのあまりに堂々とした様子に、集落内は水を打ったように静まり、オークたちはただ、彼女の歩みを見つめていた。
「かかってこないなら、そのまま死ぬだけ」
静かな集落に、鈴の音のようなゾォンの呟きが響く。
「ブギィィィィィィィィィ!!」
それに応えるように、オークたちが怒りの咆哮を上げてゾォンへと殺到した。
「いい、それがいい」
残虐な笑みを浮かべ、殺意を漲らせたゾォンがオークの集団を迎え撃つ。
横薙ぎで3体のオークを粉砕し、掬い上げるような打ち上げでオークの巨体が空を舞う。槌を突き出す突貫でオーク数体が吹き飛び、打ち下ろしで1体がぺしゃんこになったと同時に大地を割る。その衝撃が地を伝わり、オークたちが足をもつれさせる。その頃になって空を舞っていたオークが落下し、新たな血だまりを作り出した。
ゾォンは金糸の髪をなびかせ、その血だまりを飛び越える。勢いのままに振り抜いた槌は、更にオーク5体の頭部を吹き飛ばす。
「プギャプギャプギャァァァァ!!」
オークたちは戦慄し、ゾォンから距離を取る。
「プギプギプギィィィィ!!」
彼らの後方に、やや体の大きいオークの上位種らしき個体が居り、督戦の声を上げる。
「プギプゲバッ!」
そのオーク上位種が血を吐き、崩れ落ちた。
「これで5体目~」
倒れた上位種の背後から、血まみれのナイフを持ったゼニィが現れる。
上位個体を倒されたオークたちは、完全に恐慌状態に陥った。
集落内を逃げ惑うオーク。それを作業的に叩き潰していくゾォン。そのゾォンをうまく囮として使い、ひっそりと暗殺を続けるゼニィ。なお、この間、一応トーキもオークを倒している。
「俺の扱い酷くない!? これでも10体くらいはオーク倒してるよ!?」
──ゴアァァァァァァァァァァァッ!!!
ビリビリと肌に振動が伝わる。集落の外にまでも響き渡る強烈な咆哮。
恐慌状態だったオークが全員停止し、その咆哮の主に目を向ける。
集落の中心部。ひと際豪奢な飾りを身に付けたオークが立っていた。その体格は、先ほどの上位種よりも更に巨大だ。
「人間メ、タッタ三人デ、ヨクモやってクレタナ!」
そのオークは、怒りに満ちた目で3人を見る。
「まずいね、あれはロードか、もしくはキングか……」
いつの間にかトーキの横に来ていたゼニィが呟き、"逃げたほうがいいかも"と付け加える。
「このオレサマ、オーク村長ガ全員叩キ殺シテヤル!!」
瞬間、静止する空気。
「え? 村長? ロードとか、キングとか、ジェネラルとかじゃなくて? 村長なんだ?」
「……、なんか微妙だねぇ」
トーキとゼニィが寄り添い、ヒソヒソ話をするかのように会話している。が、声を抑えていないため丸聞こえである。
そんな二人の距離を離そうと、ゾォンがゴリゴリと鈍器を二人の間にねじりこむ。
「ウルサイ! マズはソコノ男! オマエカラ叩キ殺シテ──」
瞬間、超重量の鈍器がオーク村長の視界を埋めた。村長がそれに反応できたのは、曲がりなりにも上位種ゆえであろう。村長は反射的に、手に持っていた金棒でソレを受け止めた。
ギィィィンという金属同士の衝突音が響き、鍔迫り合いのような状態となった二つの鈍器は、ギャリギャリと火花を散らす。
「キ、キサマ、」
「今、何て言った?」
巨大な槌、その持ち主である華奢なエルフの少女が、底冷えするような声で凄む。
その体格からは考えられない膂力で、ギチギチと槌が押し込まれる。
「ナ、ナニヲ……、ヌグッ!」
少女の膂力に押し負け、村長が呻く。
「何て言った? トーキに何をするって? 私のトーキをどうするって?」
更に槌が押し込まれ、その一部が村長の額をへこませる。
「マ、マテ──」
槌が徐々に頭へめり込む。ついに耐え切れなくなり、村長は膝を付いた。
「ゆるさない」
ジリジリと村長を押し潰していく槌。村長は既に金棒を手放し、両手で直接それを押し返そうとしている。が、彼の抵抗空しく、万力が締まっていくように緩やかに、だが確実に、槌は村長を潰していく。
「モ、モガ、モガ」
「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない」
ゴキゴキと音を立て、村長は折れ曲がり、へし折れ、ゆっくりと槌と大地の間に消えていった。。
静寂に包まれる集落。
既に大半のオークは逃亡し、残っているのは礫死体か、圧死体か、変死体か、血だまりである。
「トーキ」
なぜか涙目となったゾォンが、トーキに駆け寄り抱き着いた。
「怖かった、トーキのために頑張れた。トーキのおかげで助かった」
「……、あ、うん、俺も怖かった」
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