11、ストーカーと守銭奴の化学反応

「私はゼニィ! よろしくね!」

 良くしゃべる女性改め、ゼニィはトーキと握手し、ゾォンと握手し──、ようとして、不穏な空気を感じたのか握手はせずに手を引っ込めた。ゾォンは小さく舌打ちした。


 トーキ達は130体分のゴブリン討伐賞金を受け取った。なぜかちゃっかりゼニィまでパーティー扱いされており、3等分での山分けとなった。


「さぁ! 次はオーク狩りでも行こうじゃないか!」

 ゼニィは揚々と次の行先を提案する。完全にパーティーの一員的なノリである。

「オークかぁ」

 清々しくも図々しいゼニィの提案であるが、トーキはそれほど悪い気はしていなかった。

 転生して15年。やっと夢想していた無双展開を迎え、もしかして俺いけるんじゃね?と少し調子に乗っているのだ。


「はっ!」

 そんな彼の背後に、絶対零度の視線が刺さる。背筋にツララを押し当てられているかのように、トーキは全身が震えだす。


「この女はだめ。この女はお金しか見ていない。可哀そうな人」

「お金が無い方が可哀そうだと思うけど?」

 ゾォンとゼニィがにらみ合う。


「不純な目的で私たちに近づくのは許さない」

「別にあんたに許可を求めてないよ? あんただって不純な目的なんじゃないの?」

 ゾォンがにじり寄っていく。が、ゼニィも全く引かない。


「私たちは通じ合っている。心と体でトーキと繋がっている」

「"体"ってやらし~、やっぱり不純じゃない。そんなんだったら、私だって繋がれるよ? 彼が養ってくれるなら、私のこと好きにしてくれて構わないし」

(えぇ!? ど、ドライ……、そんなんでいいの? でも、なぜかドキドキしちゃう)

 ゾォンとゼニィの距離が増々近づく。それに反比例するように、二人の間の空気はどんどん冷え込んでいく。


「アナタには愛がない。そんな繋がりは許されない」

「だから許可は求めてないって。さっきから愛だのなんだのって言うけど、あんたのは愛じゃなくて一方的な依存じゃない?」

(守銭奴とストーカーとか……、どっちもどっちじゃない?)

 ギリギリ接触しない、それでいて吐息がかかるほどの距離でにらみ合う二人。その間には空間のゆがみすら幻視された。


「私とトーキは一生のパートナー。これまでも、これからもずっと一緒」

「それはあんたの認識でしょ? 彼にとっての最良のパートナーは誰なのかな?」

(少なくとも二人とも違う気がする)

 これ以上二人が接近すると、恐らく世界が滅びる。そうなるまえにトーキは二人を止める。


「と、とりあえず落ち着いて……」

 止めに入るのはいいが、二人のあまりに凶悪な空気に、微妙に腰が引けているトーキ。

 彼の弱腰な声では、白熱している二人には届かない。


「お、俺のために争わないでくれ!!」

 前世まで含めたトーキの人生史上、もっとも恥ずかしいセリフを彼は口走った。

 言ってしまってからトーキは焦る。なんと自意識過剰な発言なのか──、

「トーキが"争うな"というなら止める」

「まぁ、ここで争ってもお金にならないし?」

 案外効き目があった。安定のストーカーと守銭奴であった。




 ひと悶着あったが、トーキが「オーク狩りへ行く」と述べた結果、一行はオーク狩りへと向かうこととなった。

 狂気ゾォン守銭奴ゼニィの取り扱いを急速に習熟しつつあるトーキである。


 場所も種族も異なるが、オークの集落は、ゴブリンの集落とよく似た風情であった。

 簡易的な木材の柵に守られ、東西南北の4カ所に門のような出入口が作られている。ゴブリンと異なる点は、簡単な造りではあるが木製の家が建てられている点である。

 中央部にはひと際大きな木製の平屋があり、そこが"主"に相当する個体の住処であると予想できる。


「ゾォン、あんた正面から突入して、囮になりなよ。その隙に私がお宝探して、ついでに偉そうな敵を暗殺しとくから」

「そうやって私たちを囮にして、アナタはコソ泥をするつもり。アナタの指示は受け付けない」

「あんたは動きが派手過ぎて、隠密行動ができないでしょうが!」

 オークの集落を目の前にして、再び二人が争い始めた。トーキは頭を抱えつつ、二人を宥める。


「ゾォンと俺で、正面に敵を引き付ける。その隙にゼニィは主だった上位種を暗殺していってほしい。しっかり後で山分けするから、戦利品はネコババしないように」

「わかった。トーキの指示に従う」

「ま、トーキがそう言うなら、お姉さんも言う通りにしとこうかな」

 ゾォンは頬を染めながら頷き、ゼニィは軽い様子でウインクしながら了承の意を示す。

(なんだろう、この歪なハーレム……)


 

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