2、ドイナカンを出てイナカン
トーキは転生者である。
前世は"
仕事はブラックではないがホワイトでもなく、"やりがい"もあったのかもしれないが、彼自身にはあまりやる気が無かった。就職したから惰性で働いている。そのような生き方だった。なお趣味は睡眠で、仕事以外では寝ていることが多かった。
何かの手違いで死んでしまったらしいのだが、その時の記憶はないし、転生担当の人?にはとても聞けそうな雰囲気ではなかったため、結局良く分からないままに転生した。
トーキがとりあえず一つ気になる点を上げるなら、
(どうせ名前引き継ぐなら"禰太郎"の方を引き継いでほしかったのに……)
なぜか苗字である"
トーキは、ドイナカンという村に住むボンプと、ヘイミ夫妻の子として生まれた。なお、父がボンプで母がヘイミである。
生まれた時から前世の記憶があったが、そこについては割愛させていただく。彼としても"乳児期"というのは羞恥の強い話題となるだけである。
トーキが転生する時に会った女性。改めて考えると神様的な何者か……、あのブラック労働な雰囲気には神々しさが欠片も感じられなかったため、彼は勝手に"管理者"と呼称している。
その"管理者"はあれだけキレてはいたが、ちゃんとトーキの要望通り、"冬眠"のスキルを授けてくれたらしい。トーキがうっかり「冬眠」と呟いた結果、視界に「冬眠を開始します。よろしいですか?[Yes][No]」という無駄に既視感のあるメッセージボックスが現れたのだ。
ただ、今はまだ"冬眠"は使えない。うっかり"冬眠"なんぞ使えば、"死んだ"と思われるかもしれない。"冬眠"については、成長し独立してからの楽しみとした。それまでは冬の寒さを我慢する。
トーキが3歳となったころ、やっと家から自由に外に出られるようになり、ドイナカン村にはトーキと同い年のゾォンという少女が居ることを知った。
ゾォンの家系には過去にエルフの血が入っているらしく、彼女は先祖返りとしてエルフの特徴が色濃く出ていた。つまり金髪で驚くほどの美少女。そして耳がややとんがっている。
そんなゾォンだが、
「私あなたの妻になる」
初対面で3歳の彼女がトーキに言った言葉である。
「貴方には私が居る」
「私があなたを養う。だから安心して」
「私は貴方だけを見てる。だから貴方も私だけを見て」
「私、トーキのためなら何でもする」(物理攻撃的意味合い)
「私とトーキの仲を邪魔するなら消す」(サツガイ的意味合い)
「トーキ退いて、そいつ消せない」(たまたま別の女子と挨拶した際)
彼らは順調に成長し、彼女の想い(重い)も順調に成長した。なお、ゾォンはエルフの先祖返りではあるが、寿命は人間並みであるため普通に成長した。例外として、彼女の"胸"だけはエルフの特徴を色濃く引き継いでいた。その点に触れることは、最大限の"
この世界で成人にあたる15歳になったトーキは、冒険者となるべくドイナカン村を出て、イナカンの街へ行くことを決意する。
トーキはイナカンの街に出て、冒険者になり、適当に金を貯め、下宿を借り、そして念願の"冬眠"をするのだ。
半年ほど前から両親を説得し、前日夜のうちに別れの挨拶を告げたトーキは、面倒な奴に見つからないように翌日早朝に村を出発した。
早朝のひんやりとした空気を感じながらトーキは山道を下り、一路イナカンの街を目指す。
「キシャァァァ!」
「おっと!」
トーキの目の前、草むらから角のあるウサギ"ツノウサギ"が飛び出した。
この世界にはモンスターが存在する。村周辺の山道にもそれほど強力ではないがモンスターが出現する。たとえばこのツノウサギである。角による突進は恐ろしいが、冷静に対応できれば普通の成人男性であれば十分に対処可能だ。
トーキも冒険者を目指す以上、ある程度鍛えていた。
「顕現せよ、思慮を配し灼熱よ飛べ、エクサパイロ!」
トーキの右手の平から火の玉が発射され、ツノウサギを焼いた。
彼には魔法スキルの才能があったのか、"エクサパイロ"は教えられてすぐに使えるようになった。もっとも、彼はこれ以外の魔法スキルを知らないのだが。
なお、近接戦闘に関しては、どれだけ頑張っても"どこぞのヤンデレ娘"に手も足も出なかったため、早々に諦めている。
度々出現するモンスターを"エクサパイロ"で焼きつつ、トーキはイナカンの街へたどり着いたのだった。
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